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ガラス彫刻:写真/ヴィデオ・彫刻:単チャンネル白黒ヴィデオ,
単チャンネル・オーディオ |
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映像と音響のアーティスト,ペーター・ボーガースの作品には形式と内容において関係づけられると思われる多くのヴィデオ・インスタレーションが含まれている.つまり,『ポルトレット』(1992年),『サヴァイヴァル』(1992年),『サクリファイス』(1994年)である.
これらの相対的に小さく,理解し難く,親密な三つのインスタレーションにおいて,小さなガラスの展示ケースが組み込まれている.その中には,顔の部分のヴィデオ・イメージがほんの短い時間見られ,それはレンズを通して拡大され歪められている.『ポルトレット』では,仰向けのプロフィールのイメージが見える.すなわち,口から上部の眼に結ばれるように延ばされた曲がったチューブである.われわれは,口から眼へ唾が滴るサイクルを目撃する.『サヴァイヴァル』では,上方から撮影された大きく開いた口の光景が呈示される.つまり,口の隙間に歯が脅かすように見え,水が口の内外で泡立つ.両作品は高度に個人化された関心と自己反省の儀式化された表現である.見る者は,窃視者として,目撃者として,その儀式へと立合わせられるのだ.
『サクリファイス』でもまた,口に水が満たされていく.フロア上には,見る者が覗き込めるように,上方へ向けられたかなり小さな白黒モニターを収めたガラスの展示ケースが立てられている.二枚のレンズがモニターの上方に置かれている.それは見る者の位置次第で,ヴィデオのイメージを拡大し歪める.水に囲まれながら開かれた口を上方から撮影した映像の継ぎ目のないループが見える.はじめ水はゆっくりと上昇し,完全に口が水で浸され,続いて水が陥没するが口は満たされたままである.結局,咽頭がしぼみ口は再び空になる.この四段階は永久に繰り返される.適当な瞬間に,展示ケースの底部の小さなスピーカーから水を飲み下ろすやわらかい音が聞こえてくる.
展示ケースの後部の壁面には,ヴィデオ・イメージを記録したセットと思われる大型のモノクロ写真がある.見る者は,汚れ荒れ果てたバスタブに裸で横たわり,顔がほぼ水面下にある一人の男性,つまり,このアーティストを見る.マイクが,彼の開かれた口の上方に据え付けられ,カメラと付属品がバスタブの上方に吊り下げられている.
ヴィデオとともに写真がプロセスと結果を表現している.つまり,バスタブの水を飲んでいるアーティスト.それは,何かを断念した水への禁欲的な熱中のようでもあり,高潔で受苦的な立場である.それはこの光景を非常に当惑させるものとするインスタレーションの形式によって見る者に強いられる.レンズの振る舞いは,内的で神秘的な過程,見る者が理解し難い儀式の遂行を監視する感情を増幅させている.その効果は,浄化し明快にするというより,むしろ,当惑させ遠ざけさせる.それを祝福しながら,われわれは『サクリファイス(犠牲)』の受苦的な目撃者となる.この儀式,犠牲,自己犠牲は何だろうか.
ヨリンデ・セイデル
翻訳:上神田敬
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