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序文 - ルーディ・フックス
変移する境界線 - ティモシー・ドラックレイ
序論 - レイネ・コエルヨ
アート,メディア,メディア・アート
マリエケ・ファン・ハル

入場料
展示作品




《時間/断片》
《ボーリアリス》
《O.T.S》
《アイ(私/眼)》
《ロジック・オブ・ライフ》
《内なる地図書》
《目撃者》
《フェイス・ショッピング》
《クレジット・アート》
《ファウンドリング(捨て子)》
《浴女たち》
《スキッピング・マインド/忘却についてのフィルム》
《リ・アニメイションズ》
《マラカイボ,夜行く船》
《ヘヴン》
《サクリファイス》
《レトリカ》
参加作家
 
1998年11月13日(金)〜12月27日(日) [終了しました.]





展示作品


《ファウンドリング(捨て子)》
"Foundling"

1996年
ケース・アーフィエス


インタラクティヴな彫刻:銅線,エポキシ,コンピュータ,アンプ
120×50×50cm


数年前,ケース・アーフィエスは,『スペインの蝿』と名付けられた奇妙なインタラクティヴなオブジェをわれわれに見せた.エレクトロニクス,銅線,ポリエステルで制作されたこの大きな蝿に触れると,かなり驚くべきことに,「どうぞ,もっとたくさん,気持ちいい,ああ」などと,熱狂的に反応する.あたかもこの冷たいオブジェが,すっかり温かくなり,あなたの手によって興奮させられ,しきりにもっとと懇願するかのように.控えめに言っても例外的な経験である.

そして,今,銅線から作られた小さな鹿『ファウンドリング(捨て子)』がある.実際,それは一頭ではなく,双頭の鹿である,なぜなら,その体は二つの頭を持ち,おのおのがそれ自身の性格を持つからである.台の上に展示されたこの神秘的な彫刻は長い歴史を背景としている.

「ゼウスの息子たち,アンピオンとゼートスは,双子の兄弟である.彼らは,あらゆる点において異なっていた.つまり,ゼートスは,狩りや競争や肉体的な手柄を好んだが,アンピオンは,むしろ,ミューズの九女神と美術を好んだ.彼らが共有していた唯一のものは,テーベ王ニクテウスの娘,アンティオペに対する愛が拒絶されていることであった.彼らは一緒にサティルスとなって,彼女を略奪した.アンティオペは妊娠し,彼女は父ニクテウス王の激怒を恐れてテーベから逃走した.悲しみに打ちひしがれたニクテウス王は,彼の兄弟のリコスにアンティオペを罰するよう命じて自殺した.リコスは,シクヨン王の宮廷を襲って彼女をテーベへと連れ戻した.旅宿で,彼女はシャム双生児を生んだ.リコスは,その双子を殺すよう命じた.アンティオペは双子を森に隠し,ゼウスに彼の孫たちへの哀れみを懇願した.ゼウスは,結局,彼らがリコスに殺されることを望まなかったので,触られることによって,一時的に命を吹き返す石へとその双子を変えたのだった……」


そして,今ここで,捨て子として,神の判断で呪文をかけられたシャム双生児は,彼らを目覚めさせるタッチを待っているのである.そして,確かに,撫でると彼らは生命に満ちて熱狂的に次の愛撫,次の愛情を求めてくるのである.しかし,彼らは自らの苦境に関わらず,互いの振る舞いにおいてとうてい同意見とは言い難いのだ.彼らは欺き合い,与えられる愛情を争い求める.明らかに,彼らは「父親とそっくり」なのである.あなたは,彼らの望みを満たそうとし,どちらの味方になろうかと絶望的に自問するはずである……

『スペインの蝿』とともに,『ファウンドリング(捨て子)』は,われわれの芸術作品と機械との問題含みの関係を,独創的に遊戯のように再現している.われわれは自らのオブジェを愛し,さらには,コンピュータや留守番電話,たばこの自動販売機などの機械に声をかけたりする.エレクトロニックな装置を扱うわれわれの方法は,ほとんどフェティシズムである.われわれは,これらの機械の主人として振る舞っている.しかし,それが芸術作品となると,それを安全,かつ,よそよそしい台上にわれわれは置く「触らないで下さい」という芸術のメッセージは,とりわけ象徴的に受け取られるはずである.

『ファウンドリング(捨て子)』で,アーフィエスは,われわれの慣習的な行動のコードを放棄するよう挑発し,いたずらっぽく,そして,やや皮肉を込めてさまざまな役割を反転させている.つまり,彼は,あるオブジェをわれわれに引き取らせようと誘惑し,われわれが精神的に受けとめ,物質的にも愛撫する芸術作品との身体的な関係に乗り出させるようにそそのかすのだ.


ヨリンデ・セイデル

翻訳:上神田敬