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序文 - ルーディ・フックス
変移する境界線 - ティモシー・ドラックレイ
序論 - レイネ・コエルヨ
アート,メディア,メディア・アート
マリエケ・ファン・ハル

入場料
展示作品




《時間/断片》
《ボーリアリス》
《O.T.S》
《アイ(私/眼)》
《ロジック・オブ・ライフ》
《内なる地図書》
《目撃者》
《フェイス・ショッピング》
《クレジット・アート》
《ファウンドリング(捨て子)》
《浴女たち》
《スキッピング・マインド/忘却についてのフィルム》
《リ・アニメイションズ》
《マラカイボ,夜行く船》
《ヘヴン》
《サクリファイス》
《レトリカ》
参加作家
 
1998年11月13日(金)〜12月27日(日) [終了しました.]





展示作品


《ボーリアリス》
"Borealis"
1994年
スタイナ・ヴァスルカ


2チャンネル・ヴィデオ,2台のプロジェクター,4枚の投影スクリーン,
2枚の鏡,2枚のレーザーディスク,ディスクテーター


「ザ・ヴァスルカ Inc.」は,スタイナとウッディーのヴァスルカ夫妻のことである.二人はメディア・アートと電子音楽の分野で,30年以上にわたってよく知られたアーティスト——ニューヨークの名高いメディア・シアター「ザ・キッチン」の創立者でもある——で,現在でもこの領域で新しい開拓を続けている.電子メディアの分野の真のパイオニアである彼らは,みずからヴァスルカ・イメージング・システムやデジタル・イメージ・アーティキュレーターといった装置をデザインし,組み立てている.それらを使って,特に電子的イメージと音の本質的な特徴を研究し,レンズとマイクロフォンの「裏側」にある空間を探究しているのである.

ヴァスルカ夫妻は共同で制作するだけでなく,その間に独自の形式と内容をもった個人としての作品もかなり作っている.スタイナ・ヴァスルカは,電子的イメージの光学的なアスペクトや,「トータル・スペース」の視覚化などにより深い関心を持っている.スタイナの音楽的なバックグラウンド——はじめプラハの音楽院で,ヴァイオリニストとしての教育を受けている——は,自然の風景への指向と結び付いて,ヴィデオ作品における美学とコンセプチュアルな意図を大きく決定づけている.

声とヴィデオの相互作用による作品『ヴォイス・ウィンドウズ』(1986年)でスタイナは,作曲家でメディア・アーティストのジョアン・ド・ラ・バーバラと共同制作をしている.ヴァスルカ夫妻によって開発されたインタラクティヴ・システムによって,ド・ラ・バーバラの声のテクニックを駆使した試みは,ヴィデオ・イメージとして視覚化された.『ヴォイス・ウィンドウズ』においては,音のパターンが,スタイナの作り出す動く風景のイメージに作用し,イメージと音とが相互に作用する統一体として絡み合っているのである.

スタイナによるインスタレーション『ジオマニア』(1989年)は,彼女の祖国アイスランドで撮影された,間欠泉や火山などの風景や自然現象のイメージを映し出す10台のモニターのピラミッドである.スタイナは,これらの荒涼とした,都市化されていない自然の地質的イメージを,ダイナミックな空間のコラージュへと変貌させる.そこではモンタージュのリズムが,瞑想的な交互の流れを作り出し,象徴的,知覚的な変奏に満ちたものとなっている.

『フィログリフィス』(1994年)では,暗いエリアの中に12台のモニターがサークル状に置かれ,鍛冶屋で撮影された,燃え上がる炎とはぜる火の粉のクローズアップを映している.ハンマーや金のこ,溶接器具やアセチレン・カッターの音が世俗のハーモニーを奏でている.

『ボーリアリス』によってスタイナは,垂直に置かれた4枚の自立するプロジェクション・スクリーン——それぞれ両面にイメージが投影される——,2台のヴィデオ・プロジェクター,そして鏡による巧妙なシステムによって「魔法の環境」を作り出している.2つの鏡による構造によって,ヴィデオ・プロジェクションが複製され,別のスクリーン上に映写される.見る者を囲むこれらのイメージは,流れる水やアイスランドの海の風景——時に花のイメージが驚きを生む——のクローズアップである.イメージの動きと技術的に処理された音が圧倒的に迫る.水は垂直に流れ,行ったり来たりする.それによってスタイナは,太古の昔から絶えることなく続いてきた水の自然な動きとしての流れに,異なった性質を与え,時間を別な方向に進めるのだ.あなたは『ボーリアリス』のイメージの持つリズムと空間性にすっかり没入し,とりこになる.部屋を照らすものはイメージだけであり,気を散らす「外界」は実質的に存在しない.そしてあなたはつかの間,独自の時空の秩序に支配された空間の中に溶けてゆくのだ.

ヨリンデ・セイデル

翻訳:白井雅人