慶應義塾大学 SFC 徳井直生研究室,Computational Creativity Lab(CC Lab)は,人工知能(AI)を用いた新しい創造性のあり方について,研究と表現の両面からの実践に取り組んでいます.AIを,創造性を拡張する「道具」であると同時に,人の創造的なプロセスがどのように働くのかを写し出す「鏡」として捉え,オルタナティヴな答え/アイディアを求めるためのパートナーとしてのAIのあり方を模索します.また,アートや音楽領域だけでなく,AIが社会全般に及ぼす多様な影響,AIという存在そのものがもつ意義やその本質を,表現の実践を通して問いかけようとしています.本展では,研究室が発足した2019年以降の活動成果を,複数のプロジェクトによって紹介します.また,会期中の展示替えを予定しています.
作家によるステートメント
ギリシャ神話には,芸術や学問を司るミューズ(Muses)という神々が登場します.ミューズが人知を超えた力により人々に創造性を与えたことで,詩や音楽といった芸術の文化が築かれたとされています.Computational Creativity Labでは,アートとサイエンスの視座に立ってAI(人工知能)を捉えることにより,人の創造性を拡張し,創造性の本質を解釈してきました.作り手自身に委ねられてきた多くの表現手法が,AIを用いることによって,人間には解釈可能であっても予測不可能な表現に拡張されます.また,AIに創造的な振る舞いをさせることによって,そもそも人の創造的なプロセスはどのように働くのかを理解することにつながります.人の振る舞いを模倣しつつも人知を超えた存在のように見て取れるAIによって生み出される,機械仕掛け(ex Machina)の創造性は,人間の創造性をどう変容させるのでしょうか.本展示では,研究会が発足した2019年から現在に至るまでに行われたプロジェクトを通して,人と創造性の未来を映し出します.
(慶應義塾大学 徳井直生研究室 Computational Creativity Lab)
「AI神話」と形容されることもある,人知を超えた存在のように見て取れるAIに対して,私たちは生の技術に触れることによってリアリティに根付いた議論,制作,研究を行なってきました.その過程において,私たちはしばしばAIの出力に対してはっとさせられる瞬間を体験します.それは,人の創造性のみでは到達できなかった表現に対する驚き,つまり解釈可能だが予測不可能な表現に対する驚きです.そしてそういった表現はAIを誤用する,つまり本来想定された使われ方から逸脱することによって,意外性を恣意的に狙っているにもかかわらず,AIの出力には(制作者も鑑賞者も)やはり驚かされてしまうのです.ここに,私たちはMuses ex Machina—機械仕掛けの創造性—を観察することができます.本展示では,作品と研究成果の展示を通して以上に見てきた機械仕掛けの創造性とはなにか,人間の創造性はどう拡張されるのかを問いかけると同時に,人間の創造性そのものへの解釈を行ないます.
(慶應義塾大学 徳井直生研究室 Computational Creativity Lab 学生一同)