HIVEのすゝめ|HIVE 101: Introduction to ICC’s Video Archive

Vol.7

遠藤みゆき ENDO Miyuki

1987年生まれ.東京都写真美術館学芸員.早稲田大学文学学術院 表象・メディア論コース博士課程単位取得満期退学.2015年より東京都写真美術館学芸員(映像部門)として,展覧会の企画や作品の管理を担当.企画した展覧会としては「マジック・ランタン 光と影の映像史」(2018)のほか,第8回—第12回恵比寿映像祭(2016–20)ではアシスタント・キュレーターを務める.2020年4月より,同美術館学芸員(写真部門)として勤務.


メディアの歴史と文化を経験する

メディア・テクノロジーの急速な発展に後押しされ,メディア・テクノロジーそれ自体と,それらによって形成された文化を,歴史的に考察する研究領域が発展しつつある.かつてどのようなメディア・テクノロジーが存在し,それらがどのように人々によって使用・経験されてきたのかを,実証的に探り,あるいは,そうして積み重ねられた事実から,理論を構築する研究が各国において進められている.

こうした潮流において,メディア考古学と呼ばれる学問分野,あるいはアプローチの第一人者のひとりであるエルキ・フータモ*1 の名は,日本において比較的知られているだろう.毎年のように日本を訪れ,日本文化への造詣が深いフータモは,1997年の開館から現在に至るまで,さまざまなかたちでICCの活動に携わってきた.HIVEでは,2003年と2015年に開催された講演を視聴することができる.

かくいう筆者自身も,大学院生の当時,所属していたコースで教鞭を執られていた草原真知子*2 教授を介しフータモと出会い,両氏の研究に大いに刺激を受けた一人である.2018年に「マジック・ランタン 光と影の映像史」展註1 を準備していた際には,国内外においてたびたび両氏の調査に同行させていただいた.

2003年に開催された「FUTURE CINEMA─来たるべき時代の映像表現に向けて」展関連イヴェントであるレクチャーでは,フータモは従来の初期映画史という枠組みを再編し,動くイメージ(moving image)の歴史を披露した.註2


動くイメージ,つまり「映像」は,特定の形式に基づき製作される映画とは異なり,スマートフォンの画面上にも,ラップトップや街中のディスプレイ上にも,さらには現代美術における表現から,夏の強い光線の中に浮かび上がるわたしたちの影にまで,あらゆる時と場において見出される.これらわたしたちの身の回りに存在しながら,時代の移り変わりの中で容易く変化する映像の有り様を捉え,単線的ではない,複数の映像の歴史を描くことが,メディア考古学の目指すところのひとつといえるだろう.註3

レクチャーの前半では,フータモはエミール・レイノー註4 によって発明されたプラクシノスコープの実物を手に,その使用方法を解説している.プラクシノスコープは,東京都写真美術館のコレクションにも含まれており,当時の子ども用の光学玩具として発売された,単純な機構による装置といえる.しかしながらフータモはここで,プラクシノスコープを特徴づける,蝋燭のスタンドにシェード(傘)が重ねられた装飾的な部分について言及する.19世紀末当時,家に充分な照明がない家庭も多く,蝋燭の光によって薄暗い夜でも楽しめるようにとの工夫が,このシェード付き蝋燭に凝縮されている.シェードによって集められたか細く柔らかな光が,下部の紙のシート上に描かれた絵を明るく照らし,鏡に反射した絵が滑らかに動き始める様子までを,フータモの言葉は想起させる.こうした一言は,実際に自らの手で光学玩具や視覚装置を収集し,試行錯誤を繰り返しながら自ら使用方法を推測するといった,膨大な時間とエネルギーをもってなされた調査に裏付けられている.註5

さらに2015年には,日本語での初の単著となる『メディア考古学――過去・現在・未来の対話のために』註6 の刊行記念のため,編訳者である太田純貴*3 をゲストに迎え,「メディア考古学の可能性」と題したトークが開催された.


トークでは『メディア考古学』の内容をカヴァーするというよりも,異なる切り口かつ平易な言葉で,フータモ自身が20年以上にわたり継続してきたメディア考古学に対する姿勢が語られる.とりわけ,メディア考古学を実践する研究者たち,ジークフリート・ツィーリンスキー註7 ,フリードリッヒ・キットラー*4 ,ヴォルフガング・エルンスト註8 らとの考え方の相違点を語り,同時に,歴史から零れ落ち忘れ去られたメディアを発掘するという共通点を強調する.

トークの「後半」では,編著者の太田純貴によるプレゼンテーションによって,本書のねらいが明示されており,『メディア考古学』を読み解く際の大きな助けとなる.メディア考古学とは,研究者たちそれぞれのアプローチと視点に基づき,忘れられたメディアの歴史を再び編み直す実践であるといえる.さらに,たったひとつしか存在しないと考えられてきた大きな歴史に抗い,小さな複数の歴史を書き残す,地道かつ壮大な試みであるのだ.

トークの後に行なわれた劇団みんわ座による写し絵の実演註9 は,失われた歴史を掘り返し現代によみがえらせるとともに,現在から未来のメディアを想像する,メディア考古学の営為を体現する試みといえるだろう.


忘却され,廃れたメディア・テクノロジーを発掘する実践は,研究者だけの特権ではない.すでに早くから,アーティストたちによって同様のアイディアは考察され,作品へと昇華されている.ここでは具体的な例として,ジュリアン・メール*5 ,クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー*6 ,ジェフリー・ショー*7 の3組の活動を紹介したい.


2012年に,フランス出身のメディア・アーティスト,ジュリアン・メールのアーティスト・トークが開催された.展示室では,スライド・プロジェクターとコンピュータ制御による可動式ミラーを用いた作品《切り立った映画》(2011)をはじめとする,三つの作品が展示された.註10

トークの中では,現代版マジック・ランタン・ショーとも呼べるであろう《半歩(原題:Demi Pas)》(2002)についても,その構造が詳細に語られている.モーター仕掛けのランタン・スライドは,かつてマジック・ランタン・ショーのために作られた,精巧な仕掛けスライドを想起させる.さらに,これらのスライドは,コンピュータ制御された複数のレンズが捉えるピントが移動することで,投影された映像に3次元的な効果をもたらす.

トークの最後には,いろいろな装置を解体してその構造を理解するという実体験が,制作に生かされていることが明らかにされる.映写機やスライド・プロジェクターの構造を一度解体してみせ,新たな装置へと再構成し,未知のメディアを発明する.メールの作品には,メディアへの深い理解と,それによって初めて可能になる創造が,織り込まれている.


メディア・アーティストであり,リンツ工科造形芸術大学メディア学部教授でもあるソムラー&ミニョノーは,1992年から共同で作品を発表している.アーティスト・トークでは,彼らがそれぞれ自身の背景を丹念に語り,トークが開催された2007年に至るまでの制作活動について,作品を実際に解説しながら紹介している.ソムラー&ミニョノーは,インタラクティヴ性をともない,植物とコンピュータを結び付けた最初期の作品を筆頭に,人工生命に関するパイオニア的な作品で知られている.《Life Writer》(2006)ではフリーマーケットで手に入れたタイプライターを作品に用い,古いメディア・テクノロジーを新たなインターフェイスとしてよみがえらせる.作品を鑑賞するにはタイプライターを実際に使用することが求められるが,全くタイプライターに触った経験がない世代の人も,懐かしく昔を思い出しながら素早く正確にタイピングする人もいる.あるいは《Time Lapse》(1998)註11 は,ステレオ写真をもとに,写真に写された空間を3次元的に再生する.彼らの作品を通じて,鑑賞者はかつてのメディア・テクノロジーに接する機会を与えられる.過去のメディアを入り口に,新たなテクノロジーによる体験がわたしたちにもたらされる.


メディア・アートのパイオニア的存在であり,ZKM映像メディア研究所註12 の初代所長であるジェフリー・ショーのインタヴューが,1997年のICC開館時に収録されている.インタヴューの中では,作家として活動するに至る背景とともに,この当時携わっていたEVE(Extended Virtual Environment, 1993)と呼ばれる,没入感を与えるドーム型の映像装置註13 についても触れられている.

フータモは《EVE》と19世紀のパノラマの連続性について指摘しており,同時に,インタラクションを取り入れた《EVE》は,あくまで受動的な経験であったパノラマを拡張し,再構成した作品と位置付けている.註14 エクスパンデッド・シネマの実践から,現代版パノラマの制作へとつながる,ショーの作家活動の一端を垣間見るだけでも,彼の制作の中にメディア考古学的思考が生きていることを理解することができるだろう.

さらにインタヴューの終盤では,ショーは自身の制作にとり,「どうすればアートはよみがえり,見る者の中で生き続けることができるのか」を考えることが重要な点のひとつであると述べる.作家の制作活動の根幹に横たわる普遍的な問題を語る言葉ではあるものの,失われたメディアについて考え続けることから始まるであろう,メディア考古学の視点をも包含する言葉といえるのではないだろうか.

最後になるが,コロナ禍において,美術館や博物館等の文化施設におけるオンライン上での配信への期待が高まる中,HIVEというかたちで早くから活動のアーカイヴ化を進めていた,ICCの試みの意義は今や非常に大きいといえる.ぜひステイホームをしながら,貴重なアーカイヴの数々に,ひとつでも多く触れていただければと思う.そしてもちろん,コロナ終息後には,実際に展示室に足を踏み入れ,貴重な作品の数々に触れていただきたい.


[註1]^ 「マジック・ランタン 光と影の映像史」展:2018年8月14日—10月14日,東京都写真美術館にて開催.展覧会ホームページ https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3083.html
また,展覧会カタログにはエルキ・フータモおよび草原真知子による論考を掲載.『マジック・ランタン 光と影の映像史』青弓社,2018年

[註2]^ 2003年に開催された「FUTURE CINEMA—来たるべき時代の映像表現に向けて」展......動くイメージ(moving image)の歴史を披露した.:フータモは本展カタログにも寄稿している.エルキ・フータモ(堀潤之訳)「三次元のメディア・アート――立体像と現代芸術」『FUTURE CINEMA――来たるべき時代の映像表現に向けて』NTT出版,2003年,110–117頁

[註3]^ 動くイメージ,つまり「映像」は......ひとつといえるだろう.:フータモによるメディア考古学については,以下の書籍を参照のこと.エルキ・フータモ(太田純貴編訳)『メディア考古学――過去・現在・未来の対話のために』NTT出版,2015年また,フータモはメディア考古学のアイディアを『季刊InterCommunication』での特集においても発表している.エルキ・フータモ(藤原えりみ訳)「テクノロジーの過去が復活する――メディア・アート考古学序説」『季刊InterCommunication』No.14(第4巻第4号通巻15号),NTT出版,1995年

[註4]^ エミール・レイノー:シャルル゠エミール・レイノー(1844–1918).フランスの発明家.1877年にプラクシノスコープを発明.

[註5]^ こうした一言は......調査に裏付けられている.:エルキ・フータモ・コレクションの一部を,彼のウェブサイトで見ることができる.
http://www.erkkihuhtamo.com/collection/
また,YouTubeでコレクションを解説・実演する姿を見ることも可能.
https://www.youtube.com/watch?v=Ks9tyaft7Gs

[註6]^ 『メディア考古学——過去・現在・未来の対話のために』:註3参照のこと.

[註7]^ ジークフリート・ツィーリンスキー:1951年生まれ.専門はメディア論.「FUTURE CINEMA—来たるべき時代の映像表現に向けて」展のカタログ(註2参照)に論考「未来へ遡って——タイム・マシンとしての映画の検証に向けた投企」を寄稿している(深沢秀一訳,104–109頁).

[註8]^ ヴォルフガング・エルンスト:1959年生まれ.2003年よりベルリン・フンボルト大学にて教授(メディア論)を務める.

[註9]^ 劇団みんわ座による写し絵の実演:劇団みんわ座による「だるま夜話」の公演の様子については,以下も参照のこと.実際に種板を動かす演者の動きを,上演の様子と合わせて鑑賞することができる.
https://www.youtube.com/watch?v=tyO949hpJFA

[註10]^ 2012年に,フランス出身のメディア・アーティスト,ジュリアン・メールの......3つの作品が展示された.:展覧会に際するジュリアン・メールのインタヴューは以下も参照のこと.
https://www.ntticc.or.jp/ja/channel-icc/blog/2012/07/podcast_julien/

[註11]^ 《Time Lapse》(1998):作家ウェブサイト内で作品を紹介する動画を閲覧可能.
http://www.interface.ufg.ac.at/christa-laurent/WORKS/FRAMES/FrameSet.html

[註12]^ ZKM映像メディア研究所:ZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター)の1997年の開館に先駆けて1991年に設立.ジェフリー・ショーは設立時から2003年まで所長を務めた. https://zkm.de/en

[註13]^ EVE(Extended Virtual Environment, 1993)と呼ばれる,没入感を与えるドーム型の映像装置:作家ウェブサイト内でドームの内部を紹介する動画を閲覧可能.
https://www.jeffreyshawcompendium.com/platform/eve/

[註14]^ フータモは《EVE》と19世紀のパノラマの連続性について......再構成した作品と位置付けている.:「EXCAVATION AREA:考古学的アート・ギャラリー(構成:エルキ・フータモ,遠藤徹+片山亜紀訳)」『季刊InterCommunication』No.14(第4巻第4号通巻15号),NTT出版,1995年,134–147頁.また,フータモは,ジュリアン・メール,クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノーについては,以下の論考の中で言及している.エルキ・フータモ「バックミラーのなかのアート アートにおけるメディア考古学的伝統」『メディア考古学――過去・現在・未来の対話のために』NTT出版,2015年,161–237頁

プロフィール・ページへのリンク
*1 ^ エルキ・フータモ
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/erkki-huhtamo/
*2 ^ 草原真知子
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/kusahara-machiko/
*3 ^ 太田純貴
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/ota-yoshitaka/
*4 ^ フリードリッヒ・キットラー
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/friedrich-kittler/
*5 ^ ジュリアン・メール
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/julien-maire/
*6 ^ クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/christa-sommerer-laurent-mignonneau/
*7 ^ ジェフリー・ショー
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/jeffrey-shaw/

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