HIVEのすゝめ|HIVE 101: Introduction to ICC’s Video Archive

Vol. 5

徳井直生 TOKUI Nao

1976年石川県生まれ.人工知能(AI)に基づいた音楽表現とユーザ・インタフェースの研究に従事するとともに,DJ/プロデューサーとして活動.2009年にQosmoを設立.人間の模倣でない別のロジックを持ったもうひとつの知能(Alternative Intelligence)として人工知能をとらえ,人間と共に思考できるパートナーとしてAIと人の共生による創造性の拡張の可能性を模索する.慶應義塾大学 政策・メディア研究科(SFC)准教授.


変わるもの変わらないもの


なんでこのトークを見に行かなかったのかな......20年前の自分を責めたいです.

1990年代にデザイナー向けのプログラミング環境,Design by Numbers註1 を提案.その後のProcessing註2 やopenFrameworks註3 などのクリエイティヴ・コーディングにつながる流れを作り出したジョン前田*1 さんの日本語での貴重なトーク.しかもなんとその場で書いた手書きの絵を,書画カメラで映しながらのユーモアたっぷりな講演です.

2001年当時の彼がテクノロジーに感じていた不満の多くは,今でも未解決の問題として残っているように感じます.テクノロジーと表現の関係をどう学生に教え,一緒に学ぶか.大学で教える身になった自分にとっても考えさせられる講演でした.日本とアメリカ,デジタルとアナログ,工学とデザイン,そして後にはアートとビジネス.複数の領域を横断することで,常に「先へ」と進む前田さんの人となりを目の当たりするだけでも,十分に価値があるといえます.


CTG(Computer Technique Group)*2 は,東京大学と多摩美術大学の学生たちを中心に構成されたグループで,1960年代後半に日本で初めて美術作品としてコンピュータ・グラフィック作品を制作しました.1966年から69年までの短い活動期間の間に,多数のグラフィック作品,CGアニメーション,さらにはマルコフ連鎖を用いた人工短歌なども手掛けています.1968年ロンドンで開催された世界最初のメディア・アート展として知られる「サイバネティック・セレンディピティ」展(Cybernetic Serendipity)註4 では,プロッターで描かれた一連のケネディ像を出展しています.このCTGの創始者のひとりであった幸村さんの貴重なインタヴュー映像註5 です.クリエイティヴ・コーディングの本当のパイオニアの一人といっていいでしょう.

コンピュータ・アートの歴史というと,ベル研究所のA・マイケル・ノル(A. Michael NOLL)(1962)註6 ,米陸軍弾道研究所の匿名のエンジニア(達)による作品註7 (1963),「世界最初」のコンピュータ・アートの展覧会註8 を開いたドイツのゲオルグ・ネース(Georg NEES)(1965)など,欧米のパイオニアたちの名前ばかりが先行して,なかなか省みられることがないCTGですが,ケネディ・シリーズひとつとってみてもその先進性は際立っています.エンジニアであったノルやネースらが数理的な美しさを表現したのに対して,CTGの作品からは人の手による絵画表現をアルゴリズムによって拡張しようとする姿勢が垣間見られるように感じます.

コンピュータ・アートの歴史は,どうしても欧米の白人男性中心で語られがちですが,ネースよりも先にコンピュータ・アートの展覧会を企画したサンノゼ州立大のジョアン・ショグレン(Joan SHOGREN)(1963)註9 や「サイバネティック・セレンディピティ」展を企画したキュレーターのヤシャ・ライハート(Jasia REICHARDT)は女性です.彼女たちとともに,コンピュータ・アートの歴史で重要な役割を果たしたとして,CTGの存在はきちんと語りついでいく必要があるのではないでしょうか.


自分自身のための音楽制作ソフトウェア,「オヴァルプロセス(ovalprocess)」を作ることで,メタ・ミュージシャンであることを目指したovalこと,マーカス・ポップ*3 の思考と制作の軌跡を辿れる講演.

ラップトップ・コンピュータの性能の向上と音楽ソフトウェア環境の急速な発展をみた90年代後半.当時の彼にとって「音楽はテクノロジーに対するステートメントそのものだった」という発言が印象に残りました.発展を続けるAI技術が,2020年代のApple PowerBook G3註10 やMaxのような存在になるとしたら......今,ステートメントとしての音楽が再び必要とされているのかもしれません.

90年代当時は,聞き手を煙に巻くような,反抗的な発言が目立ったポップですが,歳をとって丸くなったのか,時間軸に沿って丁寧に順を追って説明する姿勢にも好感を覚えました.


昨日の自分と今日の自分は同一なのか.本来は日々刻々と変化していく自分を,不変的な「わたし」として捉える心の動きこそが意識であるとする養老*4 さん.個性の尊重や自分探しといった言葉が示すように,変わらない「わたし」が存在するという見方が強化されているのが現代の特徴だと言います.

人は本来変化し続けるからこそ,わたしの外側に固定化した情報を表現として残すことに意味があったのに対して,わたしが変わらないという認識が広まることで表現の寿命がどんどん短くなっている,という指摘は非常に示唆的です.完成した作品の可塑性が最も低い表現形態であるところの彫刻が最上位の芸術とされた古代ギリシャ(ベンヤミン『複製技術時代の芸術』註11 )と,TikTokやInstagramが流行する2020年現在の対比に思い至りました.

常に変化しながらも連続しているわたし,動的平衡なわたしをAIで実現するにはどうしたらいいのか.
AIと表現という自分の研究分野に引きつけつつ,そんな妄想とともに拝聴しました.


HIVEアーカイヴで現在公開されている一番古いパフォーマンスの記録を探して,このステラーク*5 さんの映像にたどり着きました.1990年代当時,黎明期のインターネットやコンピュータ技術が放っていた怪しいオーラが凝縮されたパフォーマンスで,観ていて単純に嬉しくなりました.

インターネットを神経網に見立てた本作品.サーチエンジンの検索結果などに基づいて筋肉に電気刺激が与えられ,体の動きがコントロールされるというぶっ飛んだ作品ですが,今から振り返るとスマートフォンやSNS以降の「わたし」のありようを予見した作品だったようにも感じられます(一つ前の養老孟司さんの講演を参照).

「わたし」同士が常にネットワークを介して繋がり,お互いに影響を与え合う世界.ステラークさんの筋肉の痙攣が,いいねに一喜一憂する「わたし」たちの姿にも見えてきます.


[註1]^ Design by Numbers:https://dbn.media.mit.edu/ なお,前田による同名書籍が1999年に刊行されている.(邦訳版:『デジタル・メディアのデザイン技法』著:前田ジョン,訳:大野一生,ソフトバンクパブリッシング,2001年3月発行,ISBN: 978-4797315271)

[註2]^ Processing:ベン・フライとケイシー・リースにより,2001年に最初のヴァージョンが公開されたオープンソースのプログラミング言語.二人は当時,MITメディア・ラボのジョン前田が主宰する研究グループ(Aesthetics and Computation research group)に所属していた.
https://processing.org/

[註3]^ openFrameworks:2005年に最初のヴァージョンが公開された,クリエイティヴ・コーディングのためのC++のツールキット.ザッカリー・リーバーマン,セオ・ワトソン,アルトゥーロ・カストロを中心に,オープンソースで開発が進められている.
https://openframeworks.cc/

[註4]^ 「サイバネティック・セレンディピティ」展
1968年にロンドンのICA(Institute of Contemporary Arts)で開催されたコンピュータ・アートによる複合的な展覧会.
アーカイヴ・サイト
https://cyberneticserendipity.net/

[註5]^ 幸村さんの貴重なインタヴュー映像:本インタヴューは,2005年にICCで開催された「アート&テクノロジーの過去と未来」展に関連して実施された.同展には,CTGのケネディ像をはじめとするコンピュータ・グラフィック作品が複数出品された.

[註6]^ ベル研究所(Bell Labs)のA・マイケル・ノル(A. Michael NOLL)(1962年):ノルは1962年夏に,研究所にあるコンピュータで自身初のコンピュータ・アート作品を制作した.

[註7]^ 米陸軍弾道研究所の匿名のエンジニア(達)による作品(1963年):1963年,米国の業界誌『Computers and Automation』がコンピュータ・アート・コンテストを開催した.最優秀賞の《Splatter Diagram》(カメラレンズによって生じる光の歪みを視覚化したもの)は,米陸軍弾道研究所(Ballistic Research Laboratory,略称BRL)にあるコンピュータで制作されたものだった.

[註8]^ 「世界最初」のコンピュータ・アートの展覧会:「Generative Computergrafik」(Studien-Galerie des Studium Generale, Technische Hochschule Stuttgart,シュトゥットガルト,1965年2月5—19日)展のこと.史上初のコンピュータ・アートの展覧会として定説化していた.註9 も参照.

[註9]^ ネースよりも先にコンピュータ・アートの展覧会を企画したサンノゼ州立大のジョアン・ショグレン(Joan SHOGREN)(1963年):当時サンノゼ州立大の化学学科に勤務していたショグレンは,コンピュータに絵を描かせることを提案し,サンノゼ市内の書店にて1963年5月6日の1日だけ開催するコンピュータ・アート展を企画した.

[註10]^ Apple PowerBook G3:アップルが1997年から2001年まで販売していたノートブック型パーソナル・コンピュータ.

[註11]^ ヴァルター・ベンヤミン『複製技術時代の芸術』
思想家ベンヤミンが1936年に発表.参考文献:『複製技術時代の芸術』著:ヴァルター・ベンヤミン,編集解説:佐々木基一 晶文社, 1999年11月発行
ISBN: 4794912668

プロフィール・ページへのリンク
*1 ^ 前田ジョン
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/john-maeda/
*2 ^  CTG
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/ctg/
*3 ^ マーカス・ポップ(oval)
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/markus-popp-oval/
*4 ^ 養老孟司
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/yoro-takeshi/
*5 ^ ステラーク
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/stelarc/

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