ICC





はじめに
入場料
展示作品




《肌の刻印を夢見て》
《寄生,影響,変型2/寄生的,電気的交感 IV》
《Undirected / Entbildung》
《フローズン・ウォーター》
《トーキョー・サークル》
《マトリクス(無響室のための)》
《見出された光の状態:光度分布とその変動》
《固体振動のためのモニター・ユニット》
《置かれた-或いは置き換えられた音》
《ディスクス》
《トポフォニー・オブ・ザ・テクスト》
参加作家
関連イヴェント




アーティスト・トーク
パフォーマンス
1月28日(金)
1月29日(土)
1月30日(日)
2月6日(日)
2月11日(金)
特別イヴェント:ポスト・ミュージック
カタログ
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2000年1月28日(金)〜 3月12日(日) [終了しました.]





展示作品


《undirected / entbildung》
"undirected / entbildung"
クリストフ・シャルル



 


クリストフ・シャルルは,これまでに多数のインスタレーション,コラボレーション,コンサートなどを行なってきた.近年はより音楽家としての活動が多いようだが,今回はシャルルの制作活動の根幹をなす,サウンド・スケープによるインスタレーションを提示する.

シャルルはかつて自作について次のような記述をしている.「作曲の中の音よりも外の音に注意を向けさせるためのもの」.左記文中の「よりも」という部分に着目してみると,実際その曲が当の曲そのもの「よりも外の音」に注意を向けるためものだとしたら,その曲そのものは,ある触媒として,外の音をより聞こえやすくするための,いわば装置のような役割を担うものになっていると考えられる.つまり,周囲の環境や外部を取り込むような機能を果たす楽曲として.

例えば,音楽史上の特異点として記憶され,今後も参照されつづけるであろうジョン・ケージの1952年の作品《4' 33"》を想起してみる.4分33秒間の,この「無音」の作品を音楽として捉えるならば,演奏者が沈黙している作品であると考えられる.そして観客はその沈黙と同時に実際には,通常の演奏には依らない「外の音」を聞かされているわけである.そしてこの《4' 33"》は,さらに1962年の作品《4' 33"[No.2](0' 00")》に至っては,ついに曲という概念の重要な要素である時間という構造すらも失ってしまう.しかし,このときこの作品は,聴取者の,ある瞬間,瞬間の知覚作業へと転換され,概念上は常に再演可能なものとなったのだ.すると,ある日常的な営みのなかから,つまり沈黙のあとから音が立ち現われてくるようになる.

シャルルの作品タイトルに頻出する「アンディレクテッド(undirected)」という言葉が示すものは,つまりは焦点が設定されないということであろう.サンプラーや映像をコンピュータによってコントロールして織り成され,あらゆるものに注意を払うことができる焦点のない音の空間は,シャルルの言う「妨害なき相互浸透」を実現したものである.作品は,コンピュータによってランダムに生起する音と映像,観客と場所という不確定要素によって成り立ち,それぞれが自立し,完結することがなく,しかも強制もない.そこでは理想的なインタラクティヴィティが実現している.

(畠中 実 / ICC学芸員)