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ソロ・アーティストとして,またパフォーマンス・グループ「ダムタイプ」の音楽/音響担当として,国際的に活動する池田亮司は,今回,個人としては日本で初めてとなるインスタレーションを出品する.かつて池田は自らの作品が聴取される環境として,「例えばライブという方法よりは,サウンド・インスタレーションという提示方法が理想的である」という主旨のことを話していた.自分の作品の聴取環境に対して徹底した完璧主義者であろうとする池田の態度が,こうした発言に結びつくのは自然のことだと思う.つまり池田が,聴取という行為によってのみ,完結してしまうような音楽としてではなく,体験され,感覚として受容される音楽をつくりだそうとしていることの表われなのではないか.ダムタイプのパフォーマンス《OR》を例にとっても,そこには,客席という,いわば外側から鑑賞する劇場空間とは異なり,観客が,その音響やストロボによるフラッシュ,暗転などを体験することがパフォーマンス作品の,重要な構成要素となっている空間が創出されていた.
今回のプレゼンテーションはICCの無響室において行なわれるが,そこは理論上一切の音の反射がなく,また外部からも遮断された密閉空間である.そこにサラウンド・システムを持ち込み,さらに観客は完全な闇の中に投げ出される.無響室のなかで観客は視覚を奪われ,さらに池田の音楽を振動,あるいは空気の質量による圧力として「体験」することになるのだ.反響のない,密閉された空間における音と沈黙は,つまりは圧迫と解放となり,そこでは,まさに音塊が密度をもって現出するのである.
「テクノミニマリズム」とも称される池田の作品のミニマルな部分に着目してみると,周知のようにそれは,作曲プロセス上の最小化と,知覚体験を問題化した「ミニマル・ミュージック」とは異なる文脈のもので,それは限定された正弦波などの,いわば最小限の要素による,音響学的現象学とでも言うべき側面から捉えられるものである.つまり観客は,音響そのものから起こる現象を,体験することを通して,知覚するのである.
(畠中 実 / ICC学芸員)
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