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来館者のための休憩ラウンジで作品を提示するのはジェーン・ドウを名乗る匿名アーティスト.音楽ジャーナリストでもある彼女は,ドイツのレーベル,ミル・プラトーからテーリ・テムリッツとのコラボレーションCDを発表している.今回のインスタレーション《ディスクス》は,彼女の現在進行形のプロジェクトであるCD作品《サウンドA1とサウンドA2》と,インターネットを通じて行なわれたプロジェクト《マイ・ライフ・オン・ミニディスク》を併置する形で提示される.
公共空間に音楽を流すという発想は,環境音楽などに顕著な,ある特定の環境を中和させるような目的のもとに行なわれるものが代表的である.しかし彼女は,そうした環境音楽的アプローチとは発想を異にし,環境=場における認識のズレを提示する.CD作品《サウンドA1とサウンドA2》は,6秒から1分以内のさまざまに処理されたデジタル音響と無音トラックからなる70数トラックを含む2枚組みのCDが,ランダムにシャッフルされて再生されることによって聞こえてくる,間欠的な,非線形的で,断片的な音楽作品である.聴取者は,始まりも終わりもなく,多数の予測不可能な中断を含む1曲が,日常空間のなかに突如として混入される状況に立ち会うことになる.また《マイ・ライフ・オン・ミニディスク》は,ウェブ上の告知に偶然遭遇したある個人に,自分のプライヴェートな生活を,1枚のミニディスクに録音して送り返してもらうというプロジェクトである.この二種類の音源が同時に提示されることによって,音の存在と不在,公的空間と私的空間といった概念や状況を混在,あるいは混乱させる.休憩ラウンジという,ある種ニュートラルな公共空間の異化,場の性質の撹乱をも目論んでいるようだ.
(畠中 実 / ICC学芸員)
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