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音によって呼び覚ませられるものの一つに「霊性」がある.例えばそれは,西洋音楽におけるメロディやハーモニーといった構成要素ではなく,むしろ風や波などの自然現象を媒介した非楽音におけるアニミズムのようなもののなかに宿っている.
本展の出品者のなかでは最年長にあたるマックス・イーストレイは,風や水といった自然の力によって,あるいはモーターによって駆動するキネティックな音響機械を制作している.今回の共同制作者であるデヴィッド・トゥープとは1970年代初頭に出会っている.即興音楽や実験音楽の世界で活動し,また民族学的な指向にもとづいたフィールド・ワークから実験音楽やポピュラー・ミュージックまでを横断する研究や批評活動も行なうトゥープとの二人のレコードは,1975年にブライアン・イーノのレーベルであるオブスキュアから発表され,二人がそれぞれLPの片面づつを担当した「新しい楽器と再発見された楽器」まで遡る.
今回二人によるインスタレーションは,イーストレイの音響機械と,トゥープによる朗読やアンビエント・サウンド,ヴィデオ・プロジェクションなどの合作によって行なわれる.二人はまた,パフォーマンスをインスタレーションと併置して行なうが,トゥープの考える,パフォーマンスという「音の地図」をつくりだす行為を通して,彼らが現出させようとするのは,どこか神秘的な,音による想像の風景であり,音という視覚化されえない現象を介して,私たちの感情のなかにかたちづくられる物語である.イーストレイの旋回する音響機械の,きわめてミニマルな運動から紡ぎ出される繊細な微動が,さらなるイメージを喚起させ,私たちをその物語のなかに誘うとき,私たちの記憶のどこかでアニミスティックな感情が想起させられるのかもしれない.また,イーストレイの作品における「夜の精霊たち」などのタイトルに見てとれる,ある種のヴィジョンは,音という見えないものの「ぼんやり(Obscure)」とした輪郭を見えるようにする霊的なインスピレーションに満ちている.
(畠中 実 / ICC学芸員)
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