ICC





はじめに
入場料
展示作品




《肌の刻印を夢見て》
《寄生,影響,変型2/寄生的,電気的交感 IV》
《Undirected / Entbildung》
《フローズン・ウォーター》
《トーキョー・サークル》
《マトリクス(無響室のための)》
《見出された光の状態:光度分布とその変動》
《固体振動のためのモニター・ユニット》
《置かれた-或いは置き換えられた音》
《ディスクス》
《トポフォニー・オブ・ザ・テクスト》
参加作家
関連イヴェント




アーティスト・トーク
パフォーマンス
1月28日(金)
1月29日(土)
1月30日(日)
2月6日(日)
2月11日(金)
特別イヴェント:ポスト・ミュージック
カタログ
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2000年1月28日(金)〜 3月12日(日) [終了しました.]





展示作品


《トーキョー・サークル》
"Tokyo Circle"
マーク・べーレンス



 


1970年生まれのマーク・ベーレンスは出品者のなかで最も若い.しかしサウンド・インスタレーションはもちろん,すでに多数のソロCDアルバムを発表し,多くのコンピレーションCDにも楽曲を提供している.それら楽曲の多くは,フィールド・レコーディングによって録音,採集された音素材をハードディスク上で編集,加工し,精緻に編み上げられた繊細で美しい作品である.具体音や現実音(とはいえ,第三者にとってはある抽象化された音響)をより具体的に,映像的に追体験させる,いわば音による仮想空間とでも言える作品で,今回の出品作品《トーキョー・サークル》も,そうした聴覚体験をメディア・テクノロジーによって実現しようとするインスタレーションである.観客の動きをセンサーによって追尾し,その軌跡をなぞるように音景が再生される.それは「サークル(Circle)」という円,点などのシンボルがもつメタファーに関連するサウンド・ファイルを使用した,ある種の既聴感をともなったものとなる.

音響による映像的な体験の例として,例えばどこかへ旅行に出かけた際にヴィデオやカメラによる映像の記録を一切行なわず,すべてを音として記録する.それを後で聞き返してみると,映像による記録よりもさらに鮮明に,その場の情景や行動の記憶がよみがえってくるということがある.ベーレンスの自作CDを発表しているドイツのレーベル「トラント・オワゾー(trente oiseaux=三十羽の鳥)」を主催する音響作家ベルンハルト・ギュンターも,すぐれた喚起力をもつ現実音を極微小な音量で提示することで,より強力な磁場を楽曲に与える作家として知られている.ベーレンスやギュンターの作品の,非常に微小で,微細なその音響に耳を傾けるとき,われわれは決してその音を環境音楽のようには享受しない.彼らが提示しようとするのは,その音に,聴取者がより耳を傾け,没入するようにして聴覚を研ぎ澄ませるとき,彼らの知覚や意識が強化され,覚醒していくプロセスを感じ取ることなのだ.

(畠中 実 / ICC学芸員)