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ブランドン・ラベルは,言語やその発音,発声行為から,言語と発話行為,言葉の意味とその音としての機能との関係性を問題にして制作を行なっている.例えばラベルは,ロラン・バルトの著書『テクストの快楽』を読みながら,それを書き写す鉛筆の音を録音した1998年の作品《ライティング・アラウド》に代表されるような,テキストという対象を,書くこと,話すこと,さらには不自由な状態で発声すること,タイピングすることなど,さまざまな行為によってテキストを異化し,解体しようとする作品や,また詩や散文など文学作品から着想を得た多くのリーディングやパフォーマンス,インスタレーションを行なっている.その活動領域は「サウンド・アート」に属する制作活動に限らず,より音楽的な活動や美術雑誌での執筆活動など多岐にわたる.
本展における展示《トポフォニー・オブ・ザ・テキスト》は,『テクストの快楽』最終章のテキスト「声」から子音をすべて消し去り,その母音のみを朗読したものを音源としている.「A」「I」「U」「E」「O」の5個の母音は,それぞれ異なる状況で別個に録音され,ランボーが詩篇「母音」のなかでそれぞれの母音を色に喩えて定義したその分類方法に従って塗り分けられ,同様に五つの配置されたスピーカーから流れるというものである.その原形から遥か遠く離れたテキストは,そのテキストがもつ意味から宙吊りにされ,抽象的な音響へと変換される.ラベルの行為は言葉,意味,音響を,肉体という物質に還元する作業と言える.その作業は,まさにバルトの「快楽」を実践したものだと言えるだろう.
(畠中 実 / ICC学芸員)
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