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イヴェント・レポート

ICC キッズ・プログラム 2022 「どうぐをプレイする Tools for Play」「アーティスト・デイ」1日目 レポート

2022年8月25日 19:15

8月20日と21日に, ICC キッズ・プログラム 2022 「どうぐをプレイする Tools for Play」の関連イヴェントとして,「アーティスト・デイ」を開催しました.出展されている作品や制作について作家から直接話を伺うことができる機会となりました.今回は1日目の様子をお伝えしていきます.


各日とも,本展の参加作家2組ずつが会場内に滞在しました.1日目は やんツーさんと couchの宮﨑大樹さん,浅尾怜子さんにご参加いただき,本展の共同キュレーションを行なった 久納鏡子さんとICCの畠中実がモデレーターとして,来場者からの質問を交えながらお話を伺っていきました.

 


1日目はやんツーさんの作品エリアから始まりました.「近代的価値から逃走する」と題した展示では,速さではなく遅さを追求して改造された《遅いミニ四駆》,通称「遅四」と,スニーカーや「遅四」,様々な機械やコードなどが貼り付けられた「脱成長のためのイメージ」というシリーズ・タイトルの絵画作品3点が出展されています.作品エリアにはミニ四駆のサーキットが設置されていて,そこで「遅四」を走らせて,遅さを競わせることができます.トークの最中も子供たちが「遅四」を走らせるのに夢中になっている様子があり,キッズ・プログラムらしい光景を見ることができました.

 

 


《遅いミニ四駆》が制作される以前に,やんツーさんは息子さんとミニ四駆で遊んだことがあったそうです.やんツーさん自身も初めはミニ四駆の速さにもとづいた遊び方を素直に楽しんでいたらしいのですが,いかに速いかを面白がる感覚というのは「近代的価値」そのものなのでは…,とハッとしたそうです.その経験が《遅いミニ四駆》の制作につながるきっかけとなったとのことでした.資本主義的な価値観へのカウンターとして生まれ,批評性のあるテーマを持った作品でありながらも,親しみやすいモチーフを用いて子供も楽しめる表現になっているのは,やんツーさんならではの視点だと感じました.

 


couchは 《寓話の寓話〈ウミネコ〉》《Nevermore》の2作品を出品しています.《寓話の寓話〈ウミネコ〉》の作品エリアには3台の円環状の展示台が設置されており,ウミネコが登場する物語の絵がその側面に貼られています.スリット・アニメーションというアニメーション技法が用いられており,絵の前を自走するスリットのスクリーンが横切ることで,絵が動いて見える仕組みになっています.

描かれている物語は,始まりも終わりもなく必ずしも一方通行ではないため,どの絵から見始めても良いのだそうです.また,展示されている絵の中には似た場面を描いたものがいくつかありますが,始まりも終わりもない無限のつながりを想像することができるこの物語の構造を意識すると,同じ場所でも時間が異なる場面を描いていると捉えられるようになっているそうです.

 

 


渡り鳥であるウミネコは季節によって移動を繰り返し,同じ場所に何度も降り立ちますが,一度来た場所であってもそこを初めて来た場所だと認識しているそうです.このことはウミネコをモチーフに選んだ後に知ったことなのだそうですが,couchのお二人にとって制作の意図を後押ししてくれたとお話しされていました.

また《寓話の寓話〈ウミネコ〉》でスリットのスクリーンをゆっくり安定して動かすために,最終的にやんツーさんの「遅四」でも使用されているモーターが採用されたという制作の裏話も聞くことができました.《遅いミニ四駆》と《寓話の寓話〈ウミネコ〉》は,遅いからこそ見えてくる表現や面白さがあるという部分で共通しており,図らずも参加作家同士の組み合わせによって発見できた共通点がありました.

 

 


《Nevermore》は,白いキャンバスの中でcouchのお二人が筆で絵を描くようにして,家具や小物などが置かれた部屋を浮かび上がらせていく様子を映した映像作品です.これは映像技術のクロマキー合成が用いられており,部屋がすべて緑に彩色されていて,白いキャンバスに見える部分は合成された画像になっています.その上から部屋のあらゆる物を元の色に近い色に作家が塗り直す,という作業が行なわれています.今回展示されている2作品とも昔からある映像技術が用いられ,独自のアイデアと手作業によって生まれた新たな表現方法を見ることができます.

 


この作品の制作方法についての話の中で,クロマキー合成がされてない実際の現場の様子が分かる写真を,宮崎さんが見せてくださる場面がありました.参加者からはその写真も展示した方が制作過程が分かってよかったのでは?という意見がありましたが,それに対してお二人は,使っている技術をどこまで見せるかは作品ごとに違っていて,本作に関しては現在展示している映像と写真を見てもらい,その中で分かる違いや気付きに注目してもらいたいと期待をしたところがあり,あえて見せないことにしたとお話しされていました.

 

 


イヴェントの最後にやんツーさんから本展について,新しい技術やコンピュータに頼りすぎないメディア・アートの在り方を考える展示としても楽しめるのではというお話がありました.モデレーターの二人からも展示に対して,素朴な表現方法や道具を用いて作られた作品だからこそ,親しみやすいものにもなるし,なおかつ複層的な楽しみ方が含まれている作品であることで,あらゆる層の人それぞれが面白がるポイントが存在している,そういった作品たちを見ることができる展覧会になっていると締めくくられました.

 


INDUSTRIAL JPと宮下恵太さんにご参加いただいた「アーティスト・デイ」2日目のレポートも,近日中に公開予定です.また26日(金)には 荒牧悠さんと すずえりさんをお迎えし,会期最後のアーティスト・デイを開催します.今年度のICC キッズ・プログラムは今週末28日(日)までの開催です.この機会にぜひ足をお運びください!


荒牧悠,すずえり アーティスト・デイ
日時:2022年8月26日(金)午後2時—4時
会場:ICC ギャラリーA
参加費:無料


[M.A.]