《TENORI-ON(テノリオン)》は,グリッド状に配置された16×16個(256個)の発光するLEDボタンを,点を配置したり線を描いたりといった操作によって,グラフィカルに作曲,演奏を行なうことができる電子楽器です.このような「グラフィックかつメカニックな音階システム」によって,楽譜の読み書きができなくても,インターフェイスから視覚的,直感的に操作することが可能になっています.
「映像と音を結びつける」ことをテーマのひとつとして制作を行なってきた岩井は,これまでにも多くのヴィジュアル/サウンド作品を制作しています.そこで用いられている音楽の記述法はオルゴールから発想されたもので,絵を描くように音楽を作曲,演奏するためのシステムであり,またヴィジュアル・ミュージックのように視覚的に音楽を再現するものでもあります.
ヤマハとのコラボレーションによって,その構想から実現にいたるまでに6年の年月をかけて制作された《TENORI-ON》は,これまでの作品のアイデアに,より実用的な楽器の機能を持たせたものです.それは,《TENORI-ON》がピアノやヴァイオリンなどの一般的な楽器として位置づけられることをめざしたプロジェクトであることを意味しています.
岩井俊雄は,80年代初頭の大学入学後に実験アニメーション制作を始め,驚き盤やゾーイトロープといった映画前史の視覚装置から着想された作品や,音と映像を結びつけたインタラクティヴ作品などを数多く発表している.また,ゲームソフトや三鷹の森ジブリ美術館の映像装置を手がけるなど活動は広範囲にわたり,近年では,子供のための手作りによる玩具や絵本など,コンピュータを離れた制作も行なっている.
過去に参加した展示・イヴェントシンセサイザーのような,現在の電子楽器の多くは鍵盤など,既存の楽器にならったインターフェイスを持っています.これまでにも楽器に触れることなく演奏する,非接触型インターフェイスを持つテルミンのような,新しいインターフェイスが開発されてきました.それは新しい発明による楽器であると同時に,そこに内在する可能性を引き出すことによって,新しい音楽が導き出される可能性を持つ,未来の楽器としての側面を持っているといえるでしょう.