ICC
《ジャグラー》
1997年
グレゴリー・バーサミアン
《ジャグラー》
撮影:大高隆

空中に投げられた物体や曲芸師(ジャグラー)が円筒形のフレームに接続され回転していますが,点滅するストロボ・ライトが照らすときしか眼に見えません.そうすると,アニメーションと同様に,動きのない物体に時間が与えられ,実在しない「動いている」光景に見えるのです.

ICCから制作委嘱されたこの作品は,放り投げられた受話器が,哺乳瓶,ミルク,さいころ,骨に変化し,最後にパラシュートになって落ちてくるまでを,ジャグラーがひたすら反復し続けるものです.これは,バーサミアンにとって重要なテーマである,人間と機械の間にある希望と葛藤を表現した作品です.彼はこれまでも19世紀の光学装置を原理的に採用し,立体的な彫刻を回転させ,機械による反復と残像効果によって論理性や確実性から逃れた夢のようなイメージをつくっています.

グレゴリー・バーサミアン プロフィール

バーサミアンは,ユング心理学の影響を受け,1983年以来自分が見た夢の断片をテープ・レコーダーに記録してきた.彼の作品は,このデータベースから編み上げられたもので,まるで夢の一幕のような印象を与える.夢から採取されたさまざまな作品のモチーフは,日常生活や現代文化,始源的なイメージ,社会政治的なアイロニーとユーモアなど,個人的なものから普遍的なものまでの広がりをもっている.現在ニューヨーク在住.

過去に参加した展示・イヴェント
キーワード:アニメーション

回転板のなかを覗き見ると絵が動いてみえるゾーイトロープなどさまざまな視覚装置は,19世紀に発明されました.止まっているイメージが動いて見える現象は驚きを持って受け止められ,その後映画など,現在の視覚文化において重要なメディアへと発達します.現在はコンピュータの応用によって,修正や編集が効率化し,またモーション・キャプチャーなどによる動きの再現が可能になっています.