中ハシ克シゲさんは彫刻家として活動を続け、近年では二つのアート・プロジェクトを手がけている作家です。
プラモデルを接写し、その後膨大なサービス版プリント写真を繋いで原寸大の零戦を再現する「ZERO Project」、戦争にまつわる歴史的
場所の歴史的一日を同様の技法でレリーフとして表現する「On the Day Project」は、それぞれ世界各地で断続的に発表されています。
冒頭では八谷さんたっての希望で対談が実現したというお話もあり、夢の対談となりました。
八谷さんが両プロジェクトの共通点として注目したのは、「1/1(サイズ)の飛行機を作品化することによって戦争を考えるところ」で
すが、対談が進むにつれ、次第に両者の考え方の違いが見えてきました。
オープンスカイ・プロジェクトは、「個人的に飛行装置を作ってみるプロジェクト」として開始されました。そもそも、現在日本国内で
設計・製造されている民間用の航空機はないのだそうです。その背景には敗戦後の連合国による航空禁止令の影響などが考えられるとい
います。航空機開発と軍事への応用が軌を一にしてきたことも、目を背けることのできない事実です。しかし、八谷さんは実機制作を本
格的に進めるうちに、すでに戦前にジェットエンジンを付きの無尾翼機の構想があったことを知り、当時の航空技術の高さに改めて驚か
されたそうです。プロジェクトには、「個人的に飛行装置を作ってみる」ことでアーティストの立場からエンジニアリングの発想を未来
につなげたいという八谷さんの視点が含まれています。
一方、「ZERO Project」では、機体の共同制作を通じて戦争にまつわる記憶を掘り起こしていくという側面があるように思います。中ハ
シさん自身、幼い頃のプラモデル遊びを通じて間接的に戦争を知った世代でもありますが、このプロジェクトでは、実機ではなくプラモ
デルを接写した写真を素材とし、多くの参加者との共同作業で写真をつなぎ合わせて原寸大の零戦をつくります。完成した機体は最後に
燃やされますが、記憶そのものは消えずに残り参加者の対話によって連鎖していくという見方もできるのかもしれません。
飛行機という共通項から、それぞれに異なる立場で制作をする二人のアーティストのお話を聞く、貴重な対談となりました。
中ハシさんによる「ZERO Project」の説明