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イヴェント・レポート スタッフ・ノート

「多層世界とリアリティのよりどころ」展設営&「《バーチャル供養講》お堂開きパフォーマンス」イヴェント・レポート

2022年12月28日 18:00

2022年12月17日より,企画展「多層世界とリアリティのよりどころ」が開幕しました.本記事では設営期間中のオフショットや,初日に行なわれた内田聖良さんによるパフォーマンスの様子をお届けします.


ICCでは2020年度より,世界的な新型コロナウイルスの感染拡大による大きな社会的変容に対し,リアルとヴァーチュアルの両方でパラレルに展覧会を行なう試みを始めました*1.企画展では「多層世界」をキーワードとした展覧会シリーズ*2を実施し,本展はその3回目となります.

 

リアル展の会場デザインは前回の「多層世界の歩き方」展に引き続き,今回もNOIZが担当しました.会場に入ると,天井に複数吊り下げられている細い円環状の照明が目に入ります.この円は作品エリアの境界線を示しつつ,吊り下げる高さを変えることによって,来場者の方に「多層世界」のイメージを空間から感じ取っていただけるよう意図して配置されています.

 

 

 

またこの照明をよく見ていると,円ごとに明るさが周期的に変化しており,時折その変化が同期する瞬間があるのに気が付きます.これは「同期現象*3」という自然現象とも関連性が見えます.

この照明装置は施工スタッフとテクニカルスタッフによって,会場内で手作業で仕上げられていきました.

 

 

 

佐藤瞭太郎さんは,ネット上で配布されている「アセット」と呼ばれる素材データのうち3Dモデルの「アセット」を大量に収集し,それら「アセット」が登場する写真や映像作品を制作しています.各モデルの見た目からは,人種や性別などのキャラクター像が想起されますが,佐藤さんの作品の中では,元々は全く異なるデザイン意図で作成されたモデルたちが,あらかじめ設定された役割から解放されたように一堂に会している姿を見ることができます.本展では写真作品《Dummy Life (#1–24)》と新作の映像作品《Interchange》を出品しています.

設営中の会場で作業をする佐藤さん

 

 

柴田まおさんの《Blue》は,彫刻作品にクロマキー合成の技術を取り入れた作品です.会場に設置された彫刻は全て青色の様々な素材で覆われており,会場に設置されたカメラを通してクロマキー合成すると,映像上では彫刻が姿を消してしまうようになっています.彫刻やカメラの位置は,会場で設置しながら決められていきました.

開館時間中,合成後の様子は会場の外からYouTube上でも見ることができますが,彫刻の実際の姿は会場でしか見られないようになっています.

彫刻作品とカメラ位置の調整を行なう柴田さん

 

 

クロマキー合成後の映像が映し出されたモニター

 

2020年から企画展の共同キュレーションを務めている谷口暁彦さんは,3年連続で作品を出品されています.フランスの詩人マラルメの詩のタイトルから引用された《骰子一擲 / a throw of the dice》では,サイコロを投げる行為を中心にした映像作品と,映像内に登場する,かつてサイコロが落ちたどこかの風景を3Dスキャンして制作したオブジェが展示されています.

映像内のサイコロの動きはリアルタイムで生成されているため,映像の中でも2度と同じサイコロの動きを見ることができないようになっています.また本展に合わせて,映像内ではヴァーチュアルに再現されたICCの展示室内でサイコロが転がる様子がシミュレートされています.

テクニカルスタッフらとともに映像の調整をする谷口さん(右上)

 

左:谷口暁彦さん,右:柴田まおさん

 

内田聖良さんの《バーチャル供養講》は,フィクションとして新たな民間信仰を創作し,現代における供養の在り方を考えるVRを中心としたインスタレーション作品になっています.青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)での滞在制作期間中に行なわれた青森の地蔵信仰などのリサーチを元に作られた本作は,供養堂のある場所の設定が今回は青森から,新宿に移されて再制作されました.

現場で作業をする内田さん

 

展覧会初日には,「《バーチャル供養講》お堂開きパフォーマンス」が開催されました.
内田さん自身がヘッドマウントディスプレイを装着し,「バーチャル供養堂」の中に納められた思い出の品々に花を供えて回る様子を見るという内容でした.

中央:内田聖良さん

 

 

 

北條知子さんとセルゲイ・カシチュさんによるオリジナルの楽器を用いた即興演奏とともに,厳かな雰囲気の中「お堂開き」が行なわれ,作品の世界観を印象づけるパフォーマンスとなりました.

北條知子さん

 

セルゲイ・カシチュさん

 

コロナ禍によってオンラインのコミュニケーションツールや,ヴァーチュアル空間上の体験が加速度的に生活の中に浸透し,リアルとヴァーチュアルが共存する世界が実現しつつあります.デジタルやヴァーチュアルなものがリアリティに入り込んできている状況は,その中でも各個人の居心地の良さを担保できるよう,バランスを見極めていく必要がある状況だとも考えられます.

本展では,そうした「Withコロナ」における課題に対する実践の事例として,アーティストの活動を見ることができる展示であるとも言えます.

 

 

年明けは1月5日(木)より開館します.1月15日(日)まで開催の「ICC アニュアル 2022 生命的なものたち」とあわせて,ぜひお出かけください.

*1 オンライン空間上にある本展のもうひとつの展示会場「ハイパーICC」はこちら *2 2020年度開催の「多層世界の中のもうひとつのミュージアム——ハイパーICCへようこそ」と,2021年度開催の「多層世界の歩き方」 *3 ホタルの光やカエルの鳴き声,メトロノームなど,近くにある複数の異なる振動やリズムをもったものがたがいに影響しあい,そのタイミングを同期させてしまう自然現象のこと.「ICC アニュアル 2022 生命的なものたち」では,「同期現象」を利用したnorによるキネティック・サウンド・インスタレーション,《syncrowd》を展示中です.
[M.A.]