冨田勲特別賞は,2016年に逝去した作曲家 冨田勲のクリエイティヴ・スピリットを記念して,冨田勲研究会(TOMITA information Hub)とアルス・エレクトロニカが共同で授与する賞で,2021年に開始されました.デジタル・ミュージックとサウンド・アート分野において,芸術的,技術的な挑戦を続け, 革新的かつ独自の音楽で人々を刺激する作品とアーティストに贈られます.本賞は,アルス・エレクトロニカ賞における「デジタル・ミュージック&サウンド・アート」部門の応募作品の中から選出され,evalaは2021年のハイアム・アラーミ,カウンターポイント(Khyam ALLAMI/Counterpoint),2023年のロビン・フォックス(Robin FOX)に次ぐ3組目の,日本人として初めての受賞者となります.
2025年9月3日よりリンツで開催される「アルス・エレクトロニカ・フェスティヴァル 2025」において授賞式が行なわれる予定です.
この受賞を記念し,ICCでは,evalaがICC無響室のために制作した《大きな耳をもったキツネ》《Our Muse》を,8月8日(金)から9月15日(月・祝)まで再展示します.※1 ^ 「evala 現われる場 消滅する像」展 https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2024/evala-emerging-site-disappearing-sight/
※2 ^ Prix Ars Electronica https://ars.electronica.art/japan/jp/arselectronica/
受賞作品「evala 現われる場 消滅する像」展 展示作品《ebb tide》について
吸音材でできた,波打ったようないびつな形状の構造体が,展示室中央に設置されています.体験者はそこに登り,思い思いの体勢をとりながら鑑賞することができます.
《ebb tide》は,「See by Your Ears」の原点となった《大きな耳をもったキツネ》(2013–14)に立ち返り,evala自身の記憶に残る私的な場所の環境音や,さまざまな音具の音によって構成される新作です.時間経過とともに展開する物語ではなく,音響空間内に身を置く体験そのものを提示し,そこから体験者それぞれがイマジネーションを開いていくことが企図されています.
引き潮を意味するタイトルは,生死も含む人のバイオリズムが潮の満ち引きと関連しているという伝承に由来しています.構造物に身を委ねて音を聴いていると,波にのってどこか遠い彼方へと誘われていくかのようでもあり,また引き潮のときだけ現われる岩の上で去り行くものを見送るようでもあります.本作はevalaにとって,死を迎えた人々へのレクイエムでもあり,そこには連綿と継がれていく生命への畏怖も込められています.