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大友良英 音楽と美術のあいだ

2014年11月22日(土)—2015年2月22日(日)

概要

大友良英は,即興音楽からポピュラー音楽,さらに映画やテレビの劇伴音楽まで,幅広い音楽の領域で活動する音楽家です.その一方で,美術館やギャラリーなどでの展覧会への参加や,インスタレーション作品を制作するなど,美術の領域での発表も数多く行なっています.
この展覧会は,2008年に山口情報芸術センター [YCAM]で委嘱制作された作品《quartets》と,本展のための新作サウンド・インスタレーション《guitar solos 1》で構成されます.
テーマは「音楽と美術のあいだ」です.異なる芸術表現である「音楽」と「美術」は,制度も作法も独自の発展を遂げて現在に至っています.それゆえ,音楽の活動の場と美術の活動の場は,制作においても,市場においても,異なるシステムの上で動いているといえます.作り手と受け手の関係,作品の流通,作品の提示方法など,それぞれの場面でさまざまな相違があります.
そのなかで,1960年代以降,音楽と美術が相互に介入し合うような表現が多くみられるようになり,そこで生まれた表現は「インターメディア」,「パフォーマンス」,「サウンド・アート」などと呼ばれてきました.その後,さまざまなメディアを利用できる環境が整うことによって,メディア・アートや「領域横断的」と称される各種表現が生まれました.こうした表現は,従来の芸術ジャンルの定義や解釈を拡げたと同時に,それらのあいだにあった境界線をあいまいにしました.それこそが,大友のように「音楽と美術のあいだ」で活動するアーティストの表現を可能にしてきたのだといえるでしょう.
この展覧会では,いまいちど,「音楽」と「美術」という異なる表現の相違に目を向け,それらの「あいだ」にあるものとはなにかを,複数のインスタレーションとさまざまなイヴェントによって考えます.



会期:2014年11月22日(土)—2015年2月22日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
開館時間:午前11時─午後6時(入館は閉館の30分前まで)
*2月21日(土),22日(日)のみ開館時間延長 午前11時—午後7時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合翌日),年末年始(12/29–1/5),保守点検日(2/8)
入場料:一般・大学生500(400)円/高校生以下無料 
*( )内は15名様以上の団体料金

主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
協力:山口情報芸術センター [YCAM],FOSTEX
制作協力:Sachiko M

展示作品

「音楽と美術のあいだ」について

音楽家,美術家,批評家,キュレーターなど,音楽と美術のそれぞれの領域で活動する人々のコメントやテキストを集めて展示します.
あわせて「音楽と美術のあいだ」に関するエッセイも掲載します.

執筆者
阿部一直, 伊東篤宏, 梅田哲也, 小崎哲哉, 恩田晃, 坂本龍一, 佐々木敦, Sachiko M, リチャード・シャルティエ, クリストフ・シャルル, 鈴木昭男, 角田俊也, dj sniff/水田拓郎, デイヴィッド・トゥープ, 中島吏英, カールステン・ニコライ, デイヴィッド・ノヴァック, ホリー・ハーンドン, HACO, 蓮沼執太, 平川紀道, 藤田陽介, 藤本由紀夫, 堀尾寛太, 三原聡一郎, 毛利悠子, 安野太郎, 八木良太, 藪前知子, 山川冬樹, 山本精一, 米子匡司, リュウ・ハンキル, 和田永, 後々田寿徳  (敬称略)


音楽(体験)と美術(鑑賞)のあいだ
畠中実

音楽は聴覚,美術は視覚にもとづく芸術表現である,ととりあえず規定してみる.しかし,それらは互いの領域を侵食してきたともいえる.音楽によって絵画を表現する,絵画によって音楽を表現する,といったことだけではない.もちろん,1930年代からのオスカー・フィッシンガーによる視覚による音楽,ヴィジュアル・ミュージックもまた,音楽とは音の芸術というだけではなく,視覚によって表現される芸術でもありうるということを示したものだ.また,たとえば動く彫刻,キネティック・アートや,楽器としても機能する,音具としての彫刻作品の登場は,それに附随する音の存在を展示空間にもたらしただろうし,映画やパフォーマンスなどが同時代の表現として活動の領域をおなじくしていくようになると,そこにはいやおうなしに音や音楽というものが意識されていったはずである.

1960年代には,フルクサスのメンバーで作曲家のディック・ヒギンズが,音楽,美術,舞踊,詩,映画などのメディアの中間に位置するような表現をインターメディアと名づけた.日本からフルクサスに参加した音楽家,刀根康尚,小杉武久,塩見允枝子らは,音楽をさまざまなメディアによって転位を試みた.インターメディアは,テクノロジーを援用することによって「音の可視化」「動作の音響化」「光や色の可聴化」のような,それぞれの中間領域を探求する芸術と技術の実験の場へと展開していく.そして,70年代にかけては,演奏家がいなくても音楽が演奏され続ける,というアイデアにもとづき,作曲家アルヴィン・ルシエらが,音楽をサウンド・インスタレーションという表現形式で提示する.現在では,サウンド・アートという分野および呼称もすでに美術における認知度を高めていると言っていいだろう.それはメディア・アートでも同様に,音楽家と美術家がそれぞれに,あるいは恊働してアイデアを実現する領域がある.

音楽家にとってサウンド・インスタレーション,すなわち音楽を展示作品として実現する方法は,大別すればふたつのアイデアにもとづくと思われる.ひとつは,始まりや終わりというリニアな時間進行に依拠しない音楽,もうひとつは,つねに変化し続ける音楽,というものであり,双方ともに演奏家は不在である.共通するのは,音楽,あるいは音を生み出すシステムを作動させれば,内的なプログラムによって,あるいは環境の変動などの外的要因から,作品自体が音を生成し,音の様相を変化させていくということである.美術家によるインスタレーションにも映像や音,音楽の要素が少なからずあるが,音楽家によるそれは,作品としての姿は変われども,あくまでも音楽としての実践であるというちがいがある.しかし,それはいわゆる音楽体験とは異なる,音楽の外縁の拡張であるというところがある.上記のようなサウンド・インスタレーションにおいて生起するのは,時間の持続としての変化する音響であり,それ自体が空間と一体化した環境のようなものであることが多い.

今回展示される作品,《quartets》は,2008年に山口情報芸術センター(YCAM)で委嘱制作された作品であり,同センターでの展覧会「大友良英 / ENSEMBLES」で発表されて以来(会期は2008年7月5日—10月13日 《quartets》の展示期間は7月5日—9月15日),オリジナルの構成での展示は6年ぶりとなる.しかし,その展覧会において発表された四つのサウンド・インスタレーション作品の中でも,もっとも大友の音楽家としての資質に則した音楽作品としてのインスタレーションであったように思う.それは,八人の演奏家のあらかじめ収録された演奏が,プログラミングによってさまざまないくつものカルテットとして編成され,つねに異なるメンバーおよびタイミングの組み合わせによって形成される音響的な持続としてある.プログラムによって,アルゴリズミックにリコンポジションされた即興音楽,あるいは即興的瞬間を生成する装置ともいえよう.

音楽家が美術館などで作品を発表することが,すなわち演奏行為や音楽家の営みと相容れないために,そこに齟齬が生じるわけではない.大友のような音楽家による演奏活動の一部はすでに彼らの演奏の場とも相容れなくなっていた,とも言える.音楽をシステムや演奏される場所によってあらたにとらえ直すということが,ある種の創造性を音楽に導くことにもなりうる.当然のことながら,今回の展覧会における作品を,いわゆるコンサートのようなフォーマットで体験させることはむずかしいだろう.一方で,美術における作品の鑑賞の方法も,更新され続けているように,双方はそのプラットフォームを共有することが可能になっている.たとえば,《quartets》における音響の視覚化の要素は,かつてのインターメディア作品を思わせなくもない.

大友はかつて,自身のDVD作品を制作した際に同様のアイデアを持っていた.200時間を超える映像素材がインタラクティヴにミックス,エディット可能で,各素材がランダムに再編成され,常に新たな音響的出来事を生成する,というものだった.大友がかつてより行なっていた,このようなインスタレーション作品,オーディオ/ヴィジュアルな要素をもち,ランダムに生成される音楽,または構想としてのインタラクティヴ作品,というそれぞれの表現方法は「作曲と即興という二分法とは別のベクトルにある」ものであるという.それは,演奏を収録した単なる記録=ドキュメントの集積ではなく,もうひとつの上演システムの試みなのだ.

作家プロフィール

大友良英

撮影:佐藤類

ギタリスト/ターンテーブル奏者/作曲家/映画音楽家/プロデューサー

1959年横浜生まれ.十代を福島市で過ごす.常に同時進行かつインディペンデントに,即興演奏やノイズ的な作品からポップスに至るまで多種多様な音楽を作り続け,その活動範囲は世界中におよぶ.映画音楽家としても数多くの映像作品の音楽を手がけ,その数は70作品を超える.

近年は「アンサンブルズ」の名のもと,さまざまな人々とのコラボレーションを軸に展示する音楽作品や特殊形態のコンサートを手がけると同時に,障がいのある子どもたちとの音楽ワークショップや一般参加型のプロジェクトにも力を入れ,2011年の東日本大震災を受け福島でさまざまな領域で活動する人々とともに「プロジェクトFUKUSHIMA!」を立ち上げるなど,音楽におさまらない活動でも注目される.

2012年,「プロジェクトFUKUSHIMA!」の活動で芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門を受賞.2013年にはNHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽で東京ドラマアウォード2013特別賞,第55回日本レコード大賞作曲賞を受賞するなど,多岐にわたる活動で数多くの賞を受賞している.

関連情報

割引情報

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「ぐるっとパス」
http://www.rekibun.or.jp/grutto/index.html

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東京オペラシティアートギャラリーとの相互割引
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 受付にて,東京オペラシティアートギャラリーにて開催される「ザハ・ハディド」展,「スイスデザイン展」入場券をご呈示いただくと,本展に団体料金でご入場いただけます.また,「ザハ・ハディド」展,「スイスデザイン展」ご入場の際に,本展入場券をご呈示いただいた場合も,団体料金でご入場いただけます.
*他の割引との併用不可
*ご本人のみ1回限り有効

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