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イヴェント・レポート

ICC キッズ・プログラム 2022 「どうぐをプレイする Tools for Play」「アーティスト・デイ」2日目 レポート

2022年9月13日 16:00

8月21日に開催した, ICC キッズ・プログラム 2022 「どうぐをプレイする Tools for Play」「アーティスト・デイ」2日目のレポートをお送りします.


2日目は 宮下恵太さん,INDUSTRIAL JPの下浜臨太郎さんにご参加いただき,1日目と同様に,本展の共同キュレーションを行なった 久納鏡子さんとICCの畠中実と共に,出展作品にまつわるお話を様々な角度から作家へ伺っていきました.

宮下恵太さんの作品,《BEAT/BIT》の展示エリアからトークは始まりました.

 

宮下恵太さん

 

コンピュータは,すべての情報を0と1の2進数で処理しています.この作品ではまず,小型コンピュータから2進数に変換されたある文字情報が,一定の周期で缶の中に設置されたソレノイド・アクチュエー*1へ缶を叩く信号として送られます.そして缶の上に設置されたマイクが拾ったその音の拍子を,コンピュータが2進数の情報(音が鳴った拍を1,休符を0)として受け取り,それが改めて文字情報に変換されて紙に印刷されて出てくる,という構造になっています.マイクは周囲の環境音や話し声なども拾うため,それらがノイズとなって干渉してしまい,文字が正しく出力されないこともあります.
ICCのエントランスから会場へと上がる階段の途中には,作品が動作する様子を中継するモニターが設置され,缶を叩く生の音が上から聞こえてくるようになっていました.

 

 


音楽家としても活動する宮下さんは,本作でも音楽的な表現手法を使っていますが,音を出す道具として楽器ではなく缶を用いています.これに対して参加者からは,なぜ楽器を使おうとは思わなかったのか,と質問がありました.宮下さんは,身の回りにあるものを選んで制作することを意識したということと,鳴らす音は文字情報を伝えるための音であって,必ずしも楽器である必要はなかったとおっしゃっていました.

 


また,制作のきっかけについて宮下さんからは,コンピュータが我々の生活の中に溶け込み,その存在が認知しづらくなっている現在の状況に対して,あえて見せる形でコンピュータの存在を表現したかったとお話されていました.
通常,音の拍子だけでは私たち人間は言葉を読み取ることができませんが,もし本作の文字と拍子の対応関係を習得できれば,コンピュータを相手にトーキングドラムのようにしてビートで言葉を送り合えるようになるかもしれません.そこには便利さや速さを求めることはできませんが,コンピュータとのフィジカルなコミュニケーションの実現,あるいはコンピュータそのもののあったかもしれない姿を本作から想像することができます.

 


INDUSTRIAL JPからはアートディレクター,映像制作を担当されている下浜臨太郎さんにお越しいただき話を伺っていきました.INDUSTRIAL JPは日本各地の工場に赴き,工場にある工作機械の稼働する様子を音と映像で収録し,音楽家たちとコラボレーションを行なって楽曲とミュージック・ヴィデオの制作,配信を行なっています.また工場で働く人たちへのインタヴューも行ない,国内の製造業の技術力の高さや作り出される製品の魅力を発信しています*2
会場では,本展示のために再編集された3つの工場のミュージック・ヴィデオを大画面のスクリーンに映し,その手前では各工場で製造されている製品の実物を展示していました.

 

浅井製作所で製造された様々な種類のねじ

 

工作機械の精密で規則的な動きとテクノミュージックの相性がとてもよく,思わず体を揺らしたくなる小気味よさがあります.会場では度々,音楽に合わせて踊り出す子供たちの姿が見られました.
ミュージシャンの選定に関しては,ねじやばねなど製造される製品自体の動きや形,あるいは工作機械の動きなどから連想して,それに合ったサウンドやリズムの楽曲を作ってくれそうなミュージシャンを選んで楽曲制作を依頼しているそうです.

 


スクリーンの対面には大きなバナーがかかっていて,工場で働く人や現場の様子が切り取られた写真が配されています.人の存在が見えないミュージック・ヴィデオとは対照的に,製品を手作業で選別する様子や手書きの設計図などが写っており,工場では機械だけではなく人間の手作業も重要な役割を果たしていることをうかがい知ることができます.久納さんからは,こうした展示のいくつかの要素から多層的な気付きを得ることができるとコメントがありました.

 

 


また,工場で録音した音を使ったASMR*3を体験することができる《INDUSTRIAL JP ASMR》も展示されていました.展示台には両面にモニターが設置されていてどちらも同じ音が流れていますが,一方は工場内で録音している様子を撮影した実写の映像,もう一方は音から連想される動きや質感を3DCGのアニメーションで表現した映像が流れています.実写映像の方は,どんな場所でどんな機械の音を録っているのかがおよそ分かりますが,CGの方はそれを想像しながら聞くことになります.
下浜さんが会場にいる間,CGの方が集中して長い時間鑑賞する子供が多かったように感じるとおっしゃっていました.トークの最中も,親子連れのお子さんがCGアニメーションの側に座って鑑賞している姿が見られました.

 

 


両作家ともに音楽に関わる話題が多く出てきたり,工業的なモチーフを扱っていたり,この日も異なる作品同士の共通点を見つけることができたように思います.また各作品を通して,それぞれ違った視点から「どうぐをプレイする」ことについて作家と共に再考する機会にもなりました.
今年度のICC キッズ・プログラムは既に会期が終了しましたが,360度カメラで撮影した会場の様子をヴァーチュアル・ツアーとして公開しています.こちらも併せてぜひご覧ください.

 

 


「アーティスト・デイ」3日目のレポートは近日中に公開予定です.どうぞお楽しみに.


*1 ^ ソレノイドアクチュエータ:コイルに電流を流すことで磁界が発生し,通電と無通電の状態をスイッチすることで内部の可動鉄芯が駆動する装置.
*2 ^ 現在公開されている12本の映像とインタヴューはINDUSTRIAL JPのウェブサイトでご覧になれます.
*3 ^ ASMR:「Autonomous Sensory Meridian Response」の略語.バイノーラル・マイクなどを用いて録音された立体的な音像による聴覚的な刺激と,映像による視覚的な刺激が合わさった臨場感のある映像を視聴することによって,心地よいと感じたり鳥肌が立ったりする生理的な反応や感覚のこと.


[M.A.]