わたしたちを取り囲む自然や環境はつねに変化しています.環境の変化とともに,そこに生息する生物のふるまいに注意を向けることは,同様にそこで生きるわたしたちにもたらされる何らかの作用や,ひいては,わたしたちと生態系全体との関係性を見いだすことにつながります.その意味で,わたしたちは,環境から絶えず何らかのメッセージを受け取っているのだ,と言うこともできるでしょう.
生物は,自然環境と関わり,そこから情報を得ることで,内部環境の恒常性を維持し,閉じた系(生態系)を形成しています.たとえば,ある生物とそれをとりまく自然環境を,その生物の立場から観察すると,それらが自身に備えたセンサーから得る環境情報を参照することができます.そこから見える世界は,わたしたち人間がとらえているものとはまったく異なるものに感じられるかもしれません.こうした植物や動物,昆虫などの生物同士のコミュニケーション,あるいは生物の生態を調査し,そのふるまいを参照することによって,人間がそれらとどのように関わることができるかを,新たな視点から探ることができるのではないでしょうか.
本展覧会では,このような「見えないコミュニケーション」に焦点をあてます.会場では,生体情報にもとづいて自然環境を可視化,可聴化したり,バイオセンサー技術などを応用して自然環境との関係性を探る作品が展示されるほか,コンピュータによって自然環境をシミュレートし,新しい「環境」のありかたを模索するような試みも合わせて紹介します. そこから,わたしたちが何を感じ,何を知り,何を学ぶことができるのか,ということを考えるきっかけを提示したいと考えています.