チャンネルICC
「チャンネルICC」内のポッドキャストでは,会期はすでに終了しましたが,「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」出品作家のリー・イーファンのインタヴューを継続公開しています.今回は,インタヴュー内容の和訳をご紹介します.
「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」出品作家インタヴュー
リー・イーファン
展示作品の概要と制作手法
リー・イーファンです.台北から来ました.ニューメディア・アーティストとして,主に映像作品を制作しています.
ICCではふたつの作品を展示していて,ひとつは《すみません,これどうやったらオンになりますか》という2019年の作品です.そしてもうひとつは《忘れられない形》で,昨年2023年に制作した作品です.
このふたつの作品で焦点を当てているのは,人間とテクノロジーの関係,特にアニメーション・ソフトのような映像制作技術と,その背後にあるポリティクスです.
私はアニメーション畑の人間なのですが,キーフレーミングという手法は制作にすごく時間がかかるため,とても嫌いなんです.だから2019年当時,イメージやキャラクターを動かすための別の方法を探し,Unreal Engine(アンリアル・エンジン)というゲームエンジンを使い始めました.その中に自分でツールキットをたくさん組み込み,パペット・システムを構築したんです.このシステムを使うことで,〈パペット〉を直感的に操作したり,セリフを録音したりできるようになりました.
作品のコンセプト
先ほども言ったように,どちらの映像も人間とテクノロジーの関係をテーマにしています.ゲームやアニメ業界では長らくデジタルの〈人物〉たちが,人間に支配されてきたからです.
私は嘘と本当が混在している状態が好きで,だから映像の中のある情報は本当で,ある情報は作り話になっています.そこが見ていておもしろいんじゃないかと思うんです.僕の作品は映画だと言われることがありますが,それは間違っていると思います.映画としてはダメだと思います.けどだからこそ面白いし,みんな自分が見たものが本当か嘘か,考え続けるんだと思います.
各作品で扱っているテーマ
最初の作品《すみません,これどうやったらオンになりますか》は,ギャラリー内に展示しているのですが,この作品で〈人形〉を操作できるソフトウェア・ツールの制作を初めて試みました.
そしてアーティストとして,どうやってデジタルの〈身体〉をコントロールするか,ということを主題にしています.
作中では,デジタルの〈身体〉が,過去のSF映画などでどのように扱われてきたのかなどを参照しながら,デジタル・ヒューマンそのものを主題にしています.デジタル・ヒューマンがどのようなトポロジーの中で構築されたのかや,ポルノ産業との関係についても触れています.
この作品が完成した後,次はソフトウェア業界のポリティカルな部分に焦点を当て,1作目の続編となる作品を作ろうと考え,制作に取りかかりました.また1作目で構築した環境に対して,このソフトウェアがあれば,やりたいことが何でもできそうだという感覚がありました.
そして制作を続ける中で,ソフトウェア産業には特有のビジネスモデルがあることに気づき始めました.
特にAI(人工知能)が組み込まれたソフトウェアになると,ユーザはソフトウェア自体を購入することはできず,レンタルして使用することしかできません.コミュニケーション・ソフトでも同じようなことがあって,例えば台湾では絵文字がたくさん使われていますが,使うには料金がかかります.お金を払えば払うほど自分のことを表現できるようになるって,面白いなと思うんですよね.アニメーション・ソフトにおいても同様で,表現を深めるためにはソフトを借りなければならないのです.
2作目では,そのようなアーティストとソフトウェア産業の奇妙な力関係についてを軸に,さまざまなトピックを掘り下げていきました.
3Dアニメーションの手法を用いる理由
私が3Dアニメーションの世界に足を踏み入れたのは,2019年頃でした.昔はアニメーションのレンダリングにすごく時間がかかっていたので,とても正確な作業が求められましたが,その頃からレンダリングの速度が上がり,操作の結果をほとんどリアルタイムに見ることができるようになったと感じていました.そしてこれは直感的に扱えるツールになり得ると思い,私も3D表現を使い始めました.
作中で登場するキャラクターについて
作中のキャラクターですが,見た目を少し自分に似せていつも自分のアヴァターとして扱っています.
映像制作では,全ての役割を一人でこなしています.映像の演出,声の出演,キャラクターの操作なども自分でやっています.一人で全部やるというのが私には合っているようで,制作速度も上がりました.
そして,とても奇妙な話し方でキャラクターに声を当てるのが好きなんです.3Dキャラクターの舌は動かないようになっているので,自分も舌を動かさないように喋るようにしています.この奇妙な話し方についてはたまに質問されます.
今後の制作で扱いたいテーマ
これまでの2作品は,動画作成のツールそのものに焦点を当てたもので,AIについて議論するのは避けてきましたが,次回作では,AIがイメージを生成することについての議論を深めたいと思っています.AIについては,どんどんと大きなトピックになっていってますよね.
AIによる画像生成について議論をし,人間という存在について再考したいのです.AIそのものや,AIの規制に関する話題を多く取り上げようと考えています.AIに関わる規制について,それがいかに人間の自由などを制限しているかに興味があります.それが私の次のプロジェクトになると思います.
作品解説ページにて,リー・イーファンのインタヴュー動画(日本語字幕付き)も継続公開しています.併せてご覧ください.
[M.A.]