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ユーゴ・ドゥヴェルシェールのインタヴュー和訳

2025年1月10日 18:10

「チャンネルICC」内のポッドキャストでは,会期はすでに終了しましたが,「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」出品作家のユーゴ・ドゥヴェルシェールのインタヴューを継続公開しています.今回は,インタヴュー内容の和訳をご紹介します.


「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」出品作家インタヴュー
ユーゴ・ドゥヴェルシェール


自己紹介と作品概要

ユーゴ・ドゥヴェルシェールです.パリを拠点にアーティストとして活動しています.今回初めて東京で,《コスモラマ》を展示するためにICCに来ました.これは2017年に制作した映像作品です.

この作品では,私たちには不可視のレイヤーで世界を旅します.本来は天文学者が遠い宇宙を観測するための撮影技術を,作品制作に使おうと考えました.それは望遠鏡の向きを反転させて,私たちを取り巻く環境を撮影しようという発想でした.

撮影は大西洋に浮かぶ,スペイン領のテネリフェ島で行ないました.そこには,ヨーロッパ最大級の天文台があります.映像はその天文台から始まり,天文台周辺の地質学的な風景や,森林の風景などを探索していきます.
この映像では,通常は理解することも見ることも不可能な空間と時間軸を探求しています.
私たちの視点を変化させ,初めて遭遇するかのように,この世界を再発見しようと考えたのです.

本作のインスピレーションについて

この作品のアイデアは,パリ天文台の天体物理学者が撮影した,ある画像から生まれました.それは10億個以上の星を写した魅力的な画像で,当時地球から見える宇宙を最も正確に捉えています.この画像は,私たちが見えているもの見えないもの,知っていること知らないこと,これから何を発見しなければならないのか,ということの多くを語っています.
そこで私はすぐに,この技術を使って地球を撮影したことはあるのかと,学者の方々に尋ねました.すると,彼らはまだそのようなことは試したことがなかったそうなのですが,もし私が望めば,協力できるかもしれないと言ってくれました.それがこのプロジェクトの出発点でした.

撮影で使用したカメラなどの機材について

撮影に取りかかる際には,デジタル・シネマカメラのセンサーの改造から試みました.天文学者が宇宙の奥深くを観察するために用いている近赤外線のスペクトルだけを正確に記録できるようにするためです.それによって,カメラの主センサーの操作が難しかったのですが,私たちは改造に成功し,通常目に見えない波長をカメラで記録することができました.
またロケでは,遠い距離から連続的に動く映像を撮りたいと考えていました.人間の視野の外側まで捉えた映像にしたかったのです.そこで,離れた場所から遠隔操作できる3Dジンバルにカメラを取り付けてみたところ,上下左右,あらゆる方向を自由に記録することができるようになり,理想的な表現になりました.

撮影したロケーションについて

この島で撮影する際に興味深かったのは,そこにある風景が地球全体のようなものとして捉えられる点でした.そのおかげで,映像にマクロな視点とミクロな視点の両方を持たせることができました.
映像内では例えば,NASAが火星に探査機「キュリオシティ」を宇宙に送る前に,テストを行なった溶岩砂漠など,宇宙観測と関係がある様々な風景を探索していきます.ほかには,1500万年前のヨーロッパ大陸の姿を想像させるような,原始の森も探索していきます.そのようにして,人間には理解できない宇宙規模のタイムスケールを遡っていくのです.
私たちが空を見上げる時,光は一定の速度で進むので,常に過去を見ていることになりますよね.遠くを見ようとするほど,時間をさらに遡ることになります.そのような,あらゆる時間感覚をもたらす旅を,作品を通じて私たち人間に取り戻したいと考えました.

アーティストとして関心を持っていること

これまでも私の作品は,芸術と科学の関係性をテーマにしたものが多く,科学者との共同作業もたくさん行なっています.そうすることで,私たちの理解をはるかに超えた現象が知覚できるようになり,表象可能なものにもなるのです.

また,私は風景のパターンにもとても興味があります.風景は視覚的にだけでなく,地質学的,生物学的,生態系的など,さまざまな側面の情報を持っています.ですから,風景を見ている時に目に映るものを完全に理解するためには,これらすべての側面への理解が必要になります.

次回作について

私のプロジェクトの多くには,旅行や新しい土地との出会いがつきものです.今取り組んでいるプロジェクトは,チリを訪れた際のことをベースにしています.チリにも大きな天文台がいくつかあり,それらにももちろん興味があって行ったのですが,アタカマ砂漠にも行きました.そこも,地球と宇宙に密接に関係している場所なのです.
アタカマ砂漠には,リチウムや石炭,銅などの鉱山がたくさんあります.それらの鉱物は,私たちが情報を分析したり理解するために使っている,デジタル機器の製造に欠かせないということにとても興味を持ちました.これらのことが私にどんなアイデアをもたらすかはわかりませんが,私にとって,とても重要な取り組みだと考えています.


作品解説ページにて,ユーゴ・ドゥヴェルシェールのインタヴュー動画(日本語字幕付き)も継続公開しています.併せてご覧ください.


[M.A.]