チャンネルICC
上写真|撮影:木奥恵三
色彩は,芸術に関わるのはもちろんのこと,物理や化学,心理学や,工学,保存科学や応用科学の分野など,関連する領域は多岐にわたっています.東京工芸大学 色の国際科学芸術研究センターでは,工学と芸術の観点から「色」を研究テーマに取り上げ,その研究成果をメディア・アートの手法で展示したり,情報発信をしたりしています.
今回の展示では,ICC キッズ・プログラム 2021のテーマ「チューンナップ」に合わせて,鑑賞者の身体感覚にはたらきかける3つの作品が展示されました.
《自分の声でチューンナップ!》
撮影:木奥恵三
森山剛研究室の《自分の声でチューンナップ!》は,声を使った作品です.
鑑賞者がマイクに向かって声を出すと,モニターに水晶玉が現われます.この球体は声質に合わせて大きさや色が変化するようにプログラムされており,思い通りに操作するためには,声の出し方を工夫しないといけません.歌うような声,短く大きな声,ごにょごにょ話すような声など,作品を体験する人のいろいろな声が展示エリアから聞こえてきます.試行錯誤の結果,コツを掴んで自由に水晶玉を操るお子さんや,他の作品を鑑賞した後に戻ってきて何度も試すお子さんもいました.普段,自分の声を意識する機会はあまりないかもしれませんが,声を整えることで気持ちも少し変化するような感じがします.
《カオティックヴィデオフィードバック》
撮影:木奥恵三
スクリーンに向かって設置されたカメラの前に立つと,カメラが捉えた自分の姿がスクリーンに映りますが,その映像もまたカメラで撮影されているために,スクリーンには自分の姿が少し遅れて繰り返し映し出されていきます.その映像は「ロジスティック写像」と呼ばれる,カオスを生成することで知られる関数によって,繰り返しの度に常に色が変換されていきます.自分の姿が少しずつズレながら色を変えて続いていく様子は,不思議な映像の世界に放り込まれたような感覚にもなります.
キッズ・プログラムでは映像を展示する暗めの部屋を怖がるお子さんもいるのですが,この作品はお子さんにも人気で,カメラの前を行ったり来たりと元気いっぱいに体験する様子がみられました.
関数内の定数の値は展示室の端末から鑑賞者自身で変更することもでき,値を変えると映像の雰囲気がガラリと変わるのを楽しむ大人の姿も.また,会期中はカメラの映像がYouTube Liveで配信され,遠隔からパラメータを操作することもできました.
《multiplex VR - prototype》
撮影:木奥恵三
体験者は,元になった作品《multiplex》*1 のインスタレーションの中を移動する映像を,VRで鑑賞することができます.他者が体験している様子を見ている限りではそこまで大きな動きは見受けられませんが,実際に自分が椅子に座って体験すると前進・後退・回転などの動きの感覚がはっきりと身体に伝わってきます.それによって体験がよりリアルな感覚に近くなり,没入感も高まります.
整理券制で限られた人数のご案内でしたが,会場には体験者が見ている映像が映し出され,対象年齢以下のお子さんやVRが苦手な方にも作品の様子をご覧いただくことができました.
特別展示のエリアでは色の国際科学芸術研究センターの関連パンフレットが配布され,興味深そうにご覧になる方がいらっしゃったり,会期中には東京工芸大学のレクチャーが行なわれるなど,大人の視点からも体験を楽しめる展示でした.
この特別展示は会期中のみリアル会場でご体験いただけるものでしたが,色の国際科学芸術研究センターのカラボギャラリーでは独自の企画展を行なっているので,今回の展示で興味を持った方は足を運んでみてはいかがでしょうか.
なお,関連イヴェントとしてライゾマティクスの真鍋大度さんが出演され8月19日に配信したレクチャーの様子は,後日アーカイヴで公開予定です.
*1 ^ 「ライゾマティクス_マルティプレックス」展(東京都現代美術館 2021年3月20日—6月22日)で展示.
[K.N]