ICC

《マシュマロスコープ》
"Marshmallow Scope"
2002
岩井俊雄
撮影:木奥惠三
白いマシュマロのような形をしたオブジェについたモニターを覗くと,まわりの風景が,時間が行きつ戻りつするように変化したり,動いている人やものの形がゆがんだりして映っています.これはヴィデオ・カメラで撮影されコンピュータに貯えられた映像とその時間軸を,リアルタイムに操作,変形したものです.
この作品の前身にあたる《アナザータイム,アナザースペース》は,1993年にベルギー,アントワープで発表され,中央駅で行き交う人々や,ヴィデオカメラの前で体を動かす人々の姿をさまざまに変化させました.この,現実とは異なる時間や空間を作りだす映像インスタレーションは,屋外などパブリックな空間にモニターを設置し,誰もが簡単にパフォーマーとなれるような,参加性のある作品として制作されたものです.
《マシュマロスコープ》は,その作品にどこか愛らしく親しみやすい形態のボディが与えられたものです.この作品を通して,現実の世界からもうひとつの時間をもつ別の世界を覗き見る窓のような作品になっています.
岩井俊雄は,80年代初頭,大学入学後に実験アニメーション制作を始め,驚き盤やゾーイトロープといった映画前史の視覚装置から着想された作品や音と映像を結びつけたインタラクティヴ作品などを数多く発表している.また,ゲームソフト,三鷹の森ジブリ美術館の映像装置を手がけるなど,活動は広範囲にわたる.近年では,ヤマハと共同で開発中の音楽インターフェイス「TENORI-ON」によるパフォーマンスも行なっている.
映像
現在のようなコンピュータを使用したメディア・アート作品以前に,新しいメディアを使用した作品として登場したのはヴィデオ・アートでした.ヴィデオは,ポータブルな機材による機動性の高さと電子的に記録再生されることを特徴としています.また,フレーム単位での編集や画像の加工が可能になるとヴィデオは,オルタナティヴな映像メディアとしてアート作品の中に取り入れられ,映像がコンピュータで扱えるようになると,その操作はピクセル単位で可能になり,より可塑性の高い「素材」となっています.