ICC

「エマージェンシーズ!」は,これから期待されるアーティストやクリエイターの最新の作品やプロジェクトをいち早く展示するコーナーです.年間3,4回のペースで,アートや科学の新しい可能性を開いていく実験的な表現を幅広く紹介していきます.メディア・アートにおいて現在生まれつつあるものをリアルタイムで体験いただくとともに,それらを生み出すアーティストたちの発想の源泉に触れていただく場となることを期待しています.

「Materia ex machinaー機械仕掛けの絵肌」
展示期間:11/23─3/9[終了]

「ユングフラウの月」
展示期間:9/15─11/4[終了]

《ファースト・パーソン・スペース》
展示期間:7/14─9/2[終了]

「ダングリング・メディア」
展示期間:4/19─6/24[終了]




エマージェンシーズ! 007
「Materia ex machinaー機械仕掛けの絵肌」
小町谷圭
展示期間:2007年11月23日(金・祝)─2008年3月9日(日)[終了しました.]
《僕は画家、電卓片手に、足したり、引いたり、操作して、作画する。このボタン押せば、描画し続ける。》2007年, 液晶ディスプレイ/油絵描画シミュレーションソフトウェア,19インチ


《最初に描いた螺旋はどれか》2007年, 3Dカラープリンター/油絵描画シミュレーションソフトウェア,185mm×250mm(左)
《寝転んでみた名画の模写》2007年, 3Dカラープリンター/油絵描画シミュレーションソフトウェア,185mm×250mm(中)
《再帰的な関係》2007年, 3Dカラープリンター/油絵描画シミュレーションソフトウェア,185mm×250mm(右)
絵画の歴史のなかでも,テクノロジーやサイエンスは絵画表現に影響を与えてきました.例えば,ルネサンス期に発展した遠近法,ニュートンによる光と色の関係,19世紀半ばに開発された絵具用金属チューブ,マンセルによる色の分類などがあげられます.当時見たことのない色や手法,あたらしい表現テーマによって描かれた絵を目の当たりにした人々の驚きは私たちの想像を超えるものだったことでしょう.
今回紹介する作品は,デジタル空間で発見された素材と手法による新しい絵画であり,デジタル・テクノロジーや3Dプリンターといったニュー・メディアによるメディア・アート作品と考えることもできます.小町谷は,CREST,JST「デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造」プロジェクトに関わりながら,アーティストとしてデジタル・メディウムとも言える新しい画材の発見によって生まれる表現を模索しています.
新たなメディウムの開発からスタートした表現への挑戦は,私たちの視覚体験の拡張へつながると同時に,ニュー・メディアを使った表現と鑑賞について改めて考察する機会となるでしょう.
1977年生まれ.東京芸術大学美術学部先端芸術表現科非常勤講師,同大学院映像研究 科CREST研究員.大学で油画を専攻し,その後,電子メディアを使用した作品制作を経て,現在,電子メディアを基盤とした絵画表現の可能性を探求している.アート・ プロジェクトをベースとした活動や研究活動なども行なっている.
URL: http://komachiya.net

協力:
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造」 URL: http://mxa21.jp
油絵描画シミュレーションソフトウェア開発チーム(東京工業大学・東京芸術大学): 齋藤豪,岡部雄太,窪田潤,島哲生,山田英樹,張英夏,伊藤由花,野中敬介,小町谷圭,三浦高宏
株式会社DICO URL: http://www.di-co.jp

関連イヴェント
油絵描画シミュレーションソフトウェア開発チームによるデモンストレーション
日時:12月2日(日)午後2時—午後4時[終了しました.]
会場:ICC4F特設会場
|→詳細|


エマージェンシーズ! 006
「ユングフラウの月」
鈴木英倫子
展示期間:2007年9月15日(土)─2007年11月4日(日)

《吐息で光る街》(上)2006年 撮影:菅沼聖
《vogler》(左)2005年 撮影:植田憲司
《ピアニストに逃げられた》(右)2007年 撮影:高尾俊介
息を吹きかけることでほのかに光る街,音に反応して煌めく星空のようなモビール,トイピアノで操作する人形劇.

「すずえり」として音楽活動も行なっている鈴木英倫子は,オートマタ(からくり人形)や童話の世界をモチーフに,音,光,映像,音楽,挿話などを用いたインタラクティヴ作品を制作するアーティストです. ちいさな家や橋などのオブジェに息を吹きかけて光を灯し,それらを組み合せて街を作る.ハンドベルの音に反応してきらきらと星空のように光るモビール.童話的な映像を案内役として,鍵盤を押すことで自動的に和音が演奏されたり,弾いたフレーズが自動的に繰り返されて音楽が作られたり,鍵盤がゲームのコントローラーになったり,3つの異なる機能を持ったトイピアノ.これら3つの作品が,音楽やドローイングなどとともに童話的,箱庭的世界を作り出し,普段は「わき見」をしないと見えないような,ちょっと忘れられてしまった感覚をよびおこします.
武蔵野美術大学卒業後,ヴィデオ・ゲーム開発,ヴィデオ・ゲーム専門誌の編集者などをへて,2007年IAMAS DSPコース卒業.音楽家として,1998年に竹村延和の主宰するレーベルchildiscよりアルバムをリリース.竹村のサポートのほか,ユニット,ソロなどでも活動している.また,言葉にできない物語性をテーマとしたインタラクティヴ作品の制作を行なっている.

制作協力:IAMAS,木下研究所

関連イヴェント
アーティスト・トーク+ライヴ
日時:10月28日(日)午後3時より[終了しました.]
トーク:鈴木英倫子×畠中実(ICC学芸員)
ライヴ:すずえり×イトケン(Harpy, d.v.d)
会場:ICC 4階特設会場
入場料:無料


エマージェンシーズ! 005
《ファースト・パーソン・スペース》
角田哲也
展示期間:2007年7月14日(土)─2007年9月2日(日)[終了しました.]


頭部に装着するディスプレイを覗き込むとそこには仮想空間が広がっていて,頭を動かすことによって周囲360°を見渡すことができます.また,仮想空間内にはいくつかの分岐点があり,視線の向きで進む方向が決定し,別のモチーフをもった新しいステージが出現します.《ファースト・パーソン・スペース》は,鑑賞者の観察行為によって収束・分岐する空間モデルのひとつです.
人間は映像の中のささいな光の変化から,物理的には存在しない空間を知覚することがあります.このような現象に対して,工学や建築などの分野でいくつもの試みが行われてきました.この作品は,そういった試みの中でも仮想空間デザインの制限について思索したものです.重力という制限のない仮想空間において,速度の調整や,それに伴う快感がデザイン上の要点になるという着想と,クラブカルチャーにおけるVJ手法を結びつけるアプローチをとっています. また,この作品で描かれるストーリーは,非人間的な秩序が支配する無生物世界のファンタジーです.再帰関数によって生成する自己相似構造をもつ無機生命体(ナノマシン)が成長・暴走し,世界を美しく作り変えてゆく様子が描かれています. さらに今回の展示のため,映像ストーリーの根幹をなす自己相似構造という題材を共有する音楽が新たに作曲されました.
角田哲也は,1979 年生まれ,京都大学建築学科を卒業し,東京大学大学院学際情報学府博士課程に在籍している.Mixed Realityの基礎的な研究に取り組むかたわら,1998 年よりVJとして活動し,映像による空間・速度の表現を追求している.研究者として進歩的な技術開発に取り組みつつ,一方で技術に対する批判とユーモアに富んだ作品を発表している.
音楽作曲:宮内康乃


エマージェンシーズ! 004
「ダングリング・メディア」
谷口暁彦
展示期間:2007年4月19日(木)─2007年6月24日(日)[終了しました.]



《The HelicopterBand》2006年ー
ラジコンヘリコプターを操作して周波数をコントロールするライヴ,五線譜という紙の物質性を利用することで生成される「楽曲」や演奏,ベンディングを施したデジタルカメラによるセルフ・ポートレイト.「宙づり(ダングリング)」というコンセプトをめぐって谷口暁彦が展開している多彩な活動から,最新の3プロジェクトを紹介します.
谷口は,美術における「地と図」の関係や,しばしば対立する関係として語られがちな「プランと実践」「物質と情報」「内と外」などという二項を媒介するインターフェイスの存在を,矛盾する状態ととらえ,「宙づり」と命名しています.二項の狭間において,突如としてあらわれる規定さえ不可能な曖昧な状態, そこに谷口は「未だ見ぬメディウムの質感」を感じ,突き放したユーモアと真摯さをもって対峙しているのです.実は,「ダングリング・メディア」を探求しつづける谷口こそが,宙づり的なメディウムかつ存在だといえるのかもしれません.
1983年生まれ.多摩美術大学大学院デザイン専攻情報デザイン領域2年,音響ソフトウェア・アートコース専攻.プログラミングや自作のインターフェイスによる作品を製作.近年は「宙づり」というコンセプトをベースに,個人やグループでの実験的なプロジェクトを数多く展開.活動の多くは,作品を用いたライヴという形態で発表されている.