チャンネルICC

今回のブログでは,9月15日(月・祝)まで開催していた,ICC キッズ・プログラム 2025「みくすとりありてぃーず——まよいの森とキミのコンパス」展の出品作家,平瀬ミキさんによる展示準備期間の設営作業の様子と,展示作品《氷山の一角——いいかげんできまじめなドリフト》について紹介していきます.
平瀬さんがICCで展示を行なうのは「エマージェンシーズ!036」以来,約7年ぶりとなりました.そして本展では,「エマージェンシーズ!036」の展示作品である《Translucent Objects(半透明な物体)》の端緒ともなった,《氷山の一角——いいかげんできまじめなドリフト》という作品が展示されました.
《氷山の一角——いいかげんできまじめなドリフト》は,切頂四面体(せっちょうしめんたい)と呼ばれる形状のオブジェを中心とした作品です.同じ形と同じ色で彩色された切頂四面体のオブジェが会場内に複数個配置され,それぞれがカメラで撮影されています.その各所で撮影されたオブジェの映像は,複数が透過して重ね合わされ,各オブジェの近くに設置されたモニターやプロジェクターで中継されています.
オブジェは全て同じ形と色をしていますが,それぞれ大きさが違っていて,映像の中ではオブジェの大きさが揃って見えるように調整されています.そうした仕組みのために,オブジェとカメラの位置関係は緻密に決められていきました.
オブジェとカメラの位置を確認する平瀬さん(右から二番目)とICCスタッフ
また一部のオブジェは触って動かせるようになっており,映像を見ながら他の場所にあるオブジェと向きや色がピッタリ重なるように動かすことが,作品の体験に含まれています.
映像が中継される際には遅延が生じるため,オブジェを動かした時に,手元の動きとは少しズレた映像が映し出されることになります.映像を見ながら手元のオブジェを動かそうとすると,他にも左右の関係がすぐに把握しずらかったり,映る自分の姿に対して,他の場所で写された手のサイズが大きかったり,逆に小さく他の人が映っていたり,鑑賞者はいくつもの不確かさや違和感に対峙することになります.もし大きさの違うオブジェが目の前に並んでいたら,簡単にその違いが分かりますが,インターネットを介した映像越しにそれらを見ることによって,正確な情報を判断できなくなるという経験を,この作品では示しています.映像メディアやインターネットを介することで生じる情報の不確かさは,普段の生活の中にも潜んでいると言えます.また,映像表現を用いて,メディアを通してモノを見ることや情報の受け取り方を再考させるための彫刻作品であるという点で,今作と《Translucent Objects(半透明な物体)》とのつながりが感じられます.
《Translucent Objects(半透明な物体)》|撮影:木奥恵三
本展で導入された,AR技術を用いた音声ガイドのシステム「AR Audio Guide」の「サウンドスケープ・オーバーレイ」機能では,別のオブジェがある場所の環境音がリアルタイムで聞こえてくるようになっていました.この音の聞こえ方と,映像上のオブジェの重なり具合が連動していて,映像上でオブジェがうまく重なってくると,ラジオのチューニングが合うようにノイズが消えて音がはっきりと聞こえてくるようになる,という仕掛けが含まれていました.AR Audio Guideとしては,リアルタイムで音をストリーミングする機能は本展で初めて実装されたことになります.
AR Audio Guide用の貸出端末
展示されたオブジェの中で最も大きいサイズのものが,キッズ・プログラムの展示室の入り口手前のロビーに置かれ,作品の説明がなくとも,鑑賞者が自然とそのオブジェに触れて動かしてみるという行動が誘発されているようでした.さらに,自分がオブジェを動かしている様子が目の前のプロジェクションに映っていることに気が付けると,それを意識しながら,透過して映っている他のオブジェとうまく重なるよう試行錯誤し始める鑑賞者の姿も多く見られました.
撮影:木奥恵三
重なり合う映像の中では,背景で車が走っていたり,展覧会のチラシが置かれている様子が見えたりと,今いる場所ではないICCのどこかの風景がモニターにはうっすらと映し出されるため,それらが会場のどこなのか探したくなるような仕掛けも含まれていました.展示会場だけでなく,普段ならあまり目を向けない場所にもオブジェは置かれていたため,ICCの隅々にまで目を向けてもらえる機会になったかもしれません.
4階エントランス付近にも設置された切頂四面体のオブジェ
ICCのポッドキャストとYouTubeチャンネルでは,ICC キッズ・プログラム 2025参加作家による作品解説の音声コンテンツを配信しています.作品や,過去を含めた作家の活動などについて詳しくお話ししていただいています.展覧会は終了しましたが,音声は引き続き公開しています.ぜひお聞きください!
ICCウェブサイト「チャンネルICC」内のポッドキャスト
【開催概要】
ICC キッズ・プログラム 2025「みくすとりありてぃーず——まよいの森とキミのコンパス」
開催期間:2025年8月8日(金)―9月15日(月・祝) [展覧会は終了しました.]
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーB,ハイパーICC
開館時間:午前11時—午後6時
入場無料
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共同キュレーション:赤羽亨(IAMAS),鹿島田知也(ICC)
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主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] (NTT東日本株式会社)
協力:情報科学芸術大学院大学 [IAMAS]
後援:渋谷区教育委員会,新宿区教育委員会,中野区教育委員会,文京区教育委員会
[M.A]