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チャンネルICC

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スタッフ・ノート

ICC25周年によせて

2022年5月26日 19:00

ICCは,2022年4月19日に,開館25周年を迎えました.

日本における電話事業100周年の記念事業として基本構想が開始され,1991年より始まった開館前のプレ活動から数えるなら30年を超える年月となります.電話回線や黎明期のインターネットを使用し,物理空間ではなくネットワークの中で展覧会を行なうという,これまで例のなかった試みに始まり,遠隔地とネットワークで接続したテレプレゼンス(遠隔現前)イヴェントなどをへて,1997年4月19日,東京・初台に活動拠点としてのセンターを開館しました.このような前例のない試みを端緒として,この短くはない年月にわたる活動を継続してきたことは,企業の行なう文化事業としても,先進的なことと言えるのではないでしょうか.


ICCの活動期間は,科学技術や通信技術を基盤としたアートや,インタラクティヴなシステムを持った,いわゆるメディア・アートの発展史とも重なっています.80年代の終わりころから人口に膾炙し始めたメディア・アートは,90年代に入ると,ドイツ・カールスルーエのZKMメディア・ミュージアムやオーストリア・リンツのアルス・エレクトロニカ・センター(AEC)といった世界的に知られる,テクノロジーとアートに特化した機関が設立され,新しい芸術動向として注目されるようになります.ICCもそうした動向と同期して,ZKMやAECとは,準備期間や開館後も,施設やアーティストどうしの交流を行ない,現在にいたっています.

この25年という年月に,私たちを取り巻くテクノロジー環境は大きく変化し,それにともなって私たちのテクノロジー観やテクノロジーに対する意識も変化しています.それは,インターネットやデジタル環境が社会の基盤となったと言われる状況での,表現手段におけるテクノロジーの浸透にも見られます.また,作品の中で使用されるテクノロジーや,扱われるテクノロジーに対する考えや,制作や展示にかかる費用なども大きく変わったことで,規模の違いはあれど,メディア・アートと呼ばれるジャンルや,それに類する要素を持った表現やその手法は,より一般に認知されるようになってきたように思います.

25年前には,新しいメディア・テクノロジーを使用した表現は,新奇性にたよった一過性の現象とも言われていました.たしかに,それは過渡期の芸術であったとも言えるでしょう.ICCで展示されてきたような作品は,アートという範疇にとらえられなかったテーマや制作手段,素材や機材を使用したものも多く,時代とともに古びてしまったり,動作しなくなったりしてしまうものもありました.しかし,テクノロジーが,それなしには実現し得なかったような新たな体験を提供するものとして,私たちの想像力をアップデートする触媒となって,インタラクティヴなシステムや,ヴァーチュアル・リアリティなどを用いた多くの作品が制作されました.

ICCは,さまざまなメディア・テクノロジーが社会に普及していくのに伴走しながら,私たちの求めるべき「豊かな未来社会」を構想するという理念を掲げてきました.現在では,インターネットやスマートフォンはもはや生活の一部と言っていいでしょう.コンピュータの処理速度の向上にともなって,私たちの知覚体験もまた25年前とは大きく変化しています.そのようなテクノロジーを,ただ与えられるものとして扱うだけでは見えてこない部分を見つけ出すことは,メディア・アートが批評性や実験性を持つことの理由となっています.テクノロジーが,日常生活の中に溶け込んで,見えなくなっている現在,私たちをとりまくテクノロジーを問い直し,内在する可能性を見出し,創造性へと発展させていくことは,もうひとつのものの見方,新しい未来を作ることにつながります.

30年前に夢見られた生活環境が現実になったとも言えるような,メディア・アート化した世界に現在の私たちは生きています.そうした環境では,伝統的な技法による芸術表現もその影響を受けるようになるでしょう.現在は,作品を鑑賞,体験する基盤が,たとえば美術館に足を運ぶことだけではなく,さまざまな手段の提供が模索される時代であるとも言えます.そこでは,作品だけではなく,展覧会のオンライン化や,アーカイヴの整備と公開,新しい鑑賞方法の提案など,施設の機能としてのアップデートによって,これからの文化施設のあり方を提案,提供していくことも新たな役割としてとらえられるようになっています.

これからのICCで展開される活動は,現在の私たちの生活と切り離せなくなっていく同時代のテクノロジー状況をとらえながら,また同時代の社会状況に要請される視点を含んで展開されることになるでしょう.今年度より,展覧会の部分的な有料化など,いくつかの変化はありますが,これまでと変わらぬ活動を展開していきます.これからのICCにどうぞご期待ください.

ICC学芸課長/主任学芸員
畠中実