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イヴェント・レポート

「アーティスト・トーク&ライヴ・パフォーマンス 梅沢英樹+佐藤浩一」レポート

2022年1月 6日 19:20

11月13日に「オープン・スペース 2021 ニュー・フラットランド」の関連イヴェントとして,無観客配信でアーティスト・トーク&ライヴ・パフォーマンスを開催しました.出演はエマージェンシーズ! 040で《Structures of Liquidity(液体性の構造)》を12月19日まで展示した梅沢英樹さん,佐藤浩一さん,またアーティスト・トークのゲストとして横浜美術館学芸員の大澤紗蓉子さんにご登壇いただきました.司会はICCの畠中実が務めました.


イヴェントは梅沢さんと佐藤さんによるライヴ・パフォーマンスから始まります.前方のスクリーン3面では佐藤さんが制作した映像が流れ,照明を落とした会場の中スポットに照らされながら梅沢さんが複数のオーディオ・インターフェイスを駆使して,即興でサウンドを重ねていきます.

今回のパフォーマンスは,2019年に国際芸術センター青森(ACAC)で開催されたアーティスト・イン・レジデンスプログラム「賑々しき狭間」で佐藤さんが滞在制作し,その展示期間中に梅沢さんと行なったオーディオ・ヴィジュアルとティーセレモニーを掛け合わせたライヴ・パフォーマンスを,今回の配信イヴェント用に音と映像のみにエディットした内容となりました.

映像は,青森県出身の植物学者・郡場寛(こおりば・かん)とその母ふみの足跡を辿ることを中心としたリサーチの中で撮影された素材で構成されています.霧がかった森林の茂った草木や水辺,また研究施設内で管理された植物や植物標本などが対照的な自然の姿として映しだされていきます.それらがときに重なり合ったり色調が反転したり,映像的な効果が施されながら断片的に移り変わっていきます.そこに鳥や虫の鳴き声,水や氷のぶつかる音,そしてそれらを増幅させるように生成された電子音が合わさり,異世界を映しているようなスペクタクルを生みだしていきます.

パフォーマンスの中で取り扱っている地域や作品のテーマは展示作品と異なりますが,映像の表現手法や,自然と人間の活動領域の境界を意識させる表現は,共通しているところがあるように感じました.

 

パフォーマンス終了後,10分間の転換時間をとり,登壇者がステージ上の座席に移動してアーティスト・トークが始まります.

今回の展示作品は文化庁が主催する日本文化発信事業「Back TOKYO Forth」*1 のために制作され,ICCでの展示にあたり再構成されたことから,導入として「Back TOKYO Forth」に関する話題から入り,様々な要素が絡んだ展示作品の種々のお話を伺っていきます.

お二人は「Back TOKYO Forth」の展示会場であるお台場の東京国際クルーズターミナルが,海に囲まれた人工地盤の上にあることに注目し,東京の港湾地区を中心とした人工と自然が入り混じった場所,そして「ゆらぎ」という言葉をテーマに選び,リサーチベースでの作品制作を進めていきました.

もともとリサーチベースの制作を多く行なってきたお二人ですが,今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,場所や時間の制限がある中での取材・撮影となりました.また展示期間は,緊急事態宣言の発令と東京2020オリンピック・パラリンピック大会の開催期間と被り,展示会場は周囲に競技会場が密集していたという特殊な状況が重なっていました.

大澤さんは鑑賞者として「Back TOKYO Forth」の展示をご覧になった1人であり,《Structures of Liquidity(液体性の構造)》の中で引用されている磯崎新の「未来都市は廃墟そのものである」という言葉と,展示を取り巻く環境やご自身が置かれている状況とがオーバーラップし,作品からは2021年現在の東京の有り様を批評する梅沢さんと佐藤さんの眼差しが感じられたそうです.

佐藤さんからは,そうした状況をどう捉えたらよいのかを制作を通じて考え直してみたいという思いが自然と湧き,そこからお台場に設置された五輪のシンボルマークをモチーフとして使用するアイデアに結びついたというお話もありました.

 

近代以降の都市設計の中では,波や地震のような自然現象が生む不確定性のようなものが受け入れられにくくなっているのではという考えのもと,100年単位で生態系が形成されるよう設計された明治神宮の人工林や,水鳥の繁殖地として重要な機能を持つようになっている葛西の干潟のように,人工的に作られた環境が人間の手を離れた後に循環を生むように設計された自然のあり方に関心を抱き,梅沢さんと佐藤さんはリサーチを進めていきました.

今回作品の音のパートを主に担当された梅沢さんからは,フィールド・レコーディングで収集した各所のサウンド・スケープに関するエピソードをお話していただきました.今回収録した場所では,林の中や海中でもインフラや都市活動が染み混んでいるような工業的な音が聞こえ,イメージしていた音とは異なる環境音が録音できたそうです.環境や生態系の違いや変化は映像や写真を見比べるだけではなく,目に見えない情報,例えば音や匂いからも受け取ることができるのかもしれません.

大澤さんが勤務されている横浜美術館があるみなとみらい21地区も埋立地であることが話題にあがりました.過去の写真資料とともに横浜美術館を含めた周辺地区の変容や,お台場とみなとみらいの都市機能やそれぞれの生態系の違いについて触れられました.

作品のテーマである「ゆらぎ」という言葉には,波や地震のような物理的な揺らぎ,また都市や環境,資本のような社会システムも流動的に形を変えうるものだという,抽象的な揺らぎのイメージまで含んでいることがトーク全体を通じて伺うことができました.また,人間がいなくなった後の地球環境まで見通すように作品制作を行なうお二人の視点も感じられるイヴェントとなりました.

開発の進んだ東京のような都市の中で,人工と自然が入り混じって新たな生態系や循環が生まれている場所が各所に存在していることを示してくれるこの作品は,気候危機や環境汚染が急速に進む中で考えられるサステナビリティや,都市における自然との共存方法の事例としても興味深く鑑賞できるかもしれません.

 

水中カメラマンによる東京湾海面の映像撮影時の様子.
撮影:梅沢英樹

エマージェンシーズ!040《Structures of Liquidity(液体性の構造)》の展示期間は2021年12月19日(日)で終了しました.

今後もオープン・スペース 2021の関連イヴェントを行なっていく予定です.開催情報はICCのウェブサイト,SNSをご覧ください.


[M.A.]


*1 ^ 「Back TOKYO Forth」のディレクターは齋藤精一さん,キュレーターはICCの畠中が務めました.ウェブサイトでは,作家とディレクターやキュレーターによるディスカッションの様子などが動画やテキストで公開されています.