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北京 M WOODS HUTONG「坂本龍一:Ryuichi Sakamoto: seeing sound, hearing time」展 関連コンテンツご紹介

2021年4月23日 12:30

北京にある私設美術館「M WOODS HUTONG(木木美術館)」では,2021年8月8日まで,坂本龍一氏の個展 坂本龍一Ryuichi Sakamoto: seeing sound, hearing time」が開催されています.日本からはキュレーターのおひとり難波祐子氏,ダムタイプ高谷史郎氏や関係スタッフ,作品の制作過程やインストールに携わってきたテクニカル・スタッフも北京入りし,3週間の隔離期間を経て設営が行なわれました.

上写真:展覧会のリーフレット.紙ケースつきCDの体裁になっています.
2021年5月13日追記:CDは付属していません.


ICC 2017年度企画展「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」 のために制作された作品《IS YOUR TIME》,ICCでは2007年に展示された 《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》の2021年ヴァージョンなど,インスタレーション8作品が出品されています.M WOODS HUTONGのInstagramFacebookでも会場の様子が紹介されていますので,ぜひご覧ください!

《IS YOUR TIME》展示写真(2017,ICC) 《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》展示風景(2007,ICC)

坂本龍一 with 高谷史郎《IS YOUR TIME》ICCでの展示風景(2017) 撮影:丸尾隆一/坂本龍一+高谷史郎《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》ICCでの展示風景(2007) 撮影:福永一夫

海外渡航の難しい現在,日本から現地に赴いて鑑賞するのは厳しい状況ですが,上記作品がICCで展示された際に開催したアーティスト・トークの記録映像やトレイラーもアーカイヴとして公開していますので,この機会に作品制作の背景に触れてみていただければと思います.《IS YOUR TIME》をICCで展示した際の ドキュメント映像は,ICCのYouTubeチャンネルにてご覧いただけます.

また,「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」展に寄せられた坂本氏のテキスト,企画を担当した主任学芸員畠中によるテキストは,現在もICCウェブサイトで公開されていますが,こちらでもご紹介します.

展覧会に寄せて

もとはモノだったものが,人によって変形され,時間とともに,あるいは巨大な自然の力によってまたモノに還っていく.
都市もそうだ.都市の素材も鉄,ガラス,コンクリートなど,もとはみな自然のモノ.それらを人は惑星各地から集積し,あたかも彫刻のように形を与えていく.しかしそれも時間の経過とともに,モノに還っていく.

自分が住んでいるマンハッタンを見ていて,以前からそう思えて仕方なかった.これは単なる個人の妄想ではないんだと最近は思うようになった.

坂本龍一


2017年,坂本龍一は,2009年の『Out of Noise』以来8年ぶりとなるオリジナル・アルバム『async』を発表した.近年の坂本は,音楽活動にとどまらず,多岐にわたる社会活動や,数多くの映画音楽も手がけるなど多忙をきわめている.そうした中で,坂本はこのきわめて個人的で内省的ともいえる作品を,何よりも自身のために,自身のためだけに,制作することに意識を集中させていたように思える.

『async』(非同期の意)は,サウンド,ノイズ,といった非楽音的要素をミュージックとして再編させた作品であり,これまでの坂本のどのアルバムとも異なる印象を与えるものとなっている.事実,それは坂本の新しい方向性を示すものともなった.たとえば,アーティスト・グループ,ダムタイプおよびソロ・アーティストとしても世界的に活躍する高谷史郎らとの共同作業によるインスタレーション作品の制作を経た,CDあるいは5.1chといった従来のリスニング・フォーマットからより自由な音響空間の創造への強い関心である.音や映像などの要素を空間的に配置し,自在に音を設計,配置することを可能にしたインスタレーションという手法は,坂本にとって新しいコンポジションの方法となったと言えるだろう.

『async』は,まず坂本自身の好きな音を配置していくことからアイデアがスタートし,そのための音の採集が行なわれたという.いろいろなものを叩き,擦り,さまざまな響きを採集し,ピアノのペダルの残響,金属的な響き,朗読など,気に入ったものをひとつひとつ置いていく.それは,坂本自身の音楽的探究によって駆動されたものであり,それゆえ,その作品はシリアスでありながら,しかし,あらゆる音から音楽を聴き出し,さまざまな音の響きに聴き入るよろこびに満ちている.

『async』発表後すぐに,坂本は「設置音楽」として,それらの楽曲を5.1chの再生環境と映像を含めたインスタレーションとして,東京のワタリウム美術館で発表した.作品自体が,もとは5.1chで聴くことを想定して制作されているように,音の空間性を強調した音構成は,この作品がサウンド・インスタレーションを想定した,空間的にも拡張可能な作品であることを実感させる.それは,いわゆるアンビエントとは異なる,新たな空間=設置音楽として体験されるべき作品だった.

《IS YOUR TIME》は,「設置音楽」シリーズの二番目の作品として,坂本と高谷によって,今回の展覧会のために制作された新作インスタレーションである.

坂本は,東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市にある宮城県農業高等学校のピアノに出会い,人間によって作られた,本来は木や鉄であったピアノという近代を象徴する楽器が,津波という自然の力によってその機能を失い,ものへと還っていったと感じた.当初,それは坂本に「音楽の死」を思わせるほどの強い印象を与えたが,海水に漬かり,修復不能となってもなお音を奏でるピアノに,坂本はその印象を変えていくことになる.その後坂本は,そのピアノの音を自身の作品『async』にも使用した.いくつかの鍵盤からは音が鳴らなくなってしまい,調律することもむずかしい,楽器としてはもう使用不可能になってしまったこのピアノは,しかし,自然によって調律されたピアノとして,坂本にとって忘れることのできないものになっていった.

《IS YOUR TIME》は,『async』の音楽とともに,その被災したピアノを世界各地の地震データによって演奏することで,ものに還ったピアノを新たに地球の鳴動を感知させるためのメディアとして「転生」させることを試みるインスタレーションである.ICCの展示空間が,物理的な音を感知することだけにとどまらない音楽や地球を感覚する場となるだろう.

畠中実(ICC主任学芸員)


映像アーカイヴ HIVE
LIFE – fluid, invisible, inaudible …
トーク「《LIFE – fluid, invisible, inaudible …》をめぐって」
開催日:2007年9月15日
出演者:坂本龍一,高谷史郎,浅田彰,中沢新一(ゲスト)
前半:48:04,後半:01:03:43
https://hive.ntticc.or.jp/contents/artist_talk/20070915


ICC YouTubeチャンネル
「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」展
トレイラー Vol.1  00:30
https://youtu.be/sKm3zJOHBi4

坂本龍一+高谷史郎 インタヴュー(ショート・ヴァージョン) 03:42
https://youtu.be/VZjduKXVUhY

展覧会ドキュメント 38:53
https://youtu.be/onNBysMf9WM


【展覧会開催情報】
Ryuichi Sakamoto: seeing sound, hearing time
会期:2021年3月15日(月)—8月8日(日)
会場:M WOODS HUTONG(木木美術館)
798 Art Zone D-06, No.2 Jiuxianqiao Rd, Chaoyang, Beijing
https://www.mwoods.org/Ryuichi-Sakamoto-seeing-sound-hearing-time


[A.E.]