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「オープン・スペース 2018 イン・トランジション」展について

2018年6月16日 18:45

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6月2日(土)より,「オープン・スペース 2018 イン・トランジション」展が,新たなラインナップで始まりました.


「オープン・スペース」では,2016年度から今回のように,毎年のテーマを表すタイトルをつけるようになりました.以前にも,タイトルとして表には出ていませんでしたが,2010年度には会場内にテーマを表示していたことがありました.それは「アート&テクノロジーの考古学」というものでした.いわゆるメディア考古学の考え方は,メディア・アートにおいても目立った特徴のひとつである重要な要素だと思っています.現在から眺めるならば,過去から現在にいたる道筋は一本しかないように見えますが,過去から未来としての現在が見えたとしたら,そこにはたくさんの選択肢があって,未来はいくつもの道に分岐している.決まった出発地と目的地を結ぶ線は一本に決まっているわけではなく,また,当初の目的地とは異なる目的地にたどりつくこともある.メディア考古学では,ありえたかもしれないいくつもの選択肢をどのように選択していくかによっては,いろいろな目的地が想定できる.たとえば何百年も昔のテクノロジーをレファレンスとしながら,いくつもの未来を想像することができる.そうしたいくつもの未来が,その推移(トランジション)の中に内在している.それもまた,今回のタイトルに表そうとしたもののひとつです.そういう意味では,今回の展覧会は,多様性を帯びることになるだろうし,メディア考古学に限った話ではない,アートとテクノロジー,テクノロジーと社会,などに関係するものだと思います.またそこには,ある時代からある時代への変化が,2018年という時代を切断面としてその表現に現われている,そのような展覧会にしたいと考えました.

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毎年開催される展覧会が持つ意味とは,毎回,その時代がどのような時代だったのかということが切断面として現れることだと思います.「オープン・スペース」展も,13回目になりますが,これまでいろいろなやり方を試行錯誤して,現在のような展覧会のアプローチにいたっています.その年に選ばれた作品は,何らかの形で現在という時代を物語っている,その時代を表象したものだと思っています.これまでは,テーマを前面に出すことはなく,むしろ作品の中からいろいろなテーマが立ち上がってくるようなものだと考えていましたが,2016年度から,その年に対するテーマをタイトルとして打ち出すようになりました.

今回の「イン・トランジション」について言えば,transitionとは,移行,転換,変革,遷移,といった意味を持っていますが,テクノロジーというものは,常に古いものから新しいものにとってかわられていくものです.それは時間をかけて変化していくものでもありますが,それが突然起こったように感じることがあります.「未来とは,バックミラーに映った過去である」という,マーシャル・マクルーハンの言葉がありますが,変化が顕在化した時にはじめてそれに気づく.私たちは「トランジション」のただ中にいて,その変化になかなか気がつかない.その移行期の中にこそ変化の可能性が内在していて,またそれは,さまざまなアーティストの試み中に存在しているものかもしれない.

メディア・アートは,ある時代のテクノロジーと密接に関係し,作品はその結果として表出したものである,というような側面もありますが,制作された当時には見えなかったものが,時間を経ることでもっと違う可能性として見えてくることがある.または当時とは違った見方ができるようになる.そのように芸術作品とは,その時代ごとの社会状況などを映し出す,多様な可能性として存在している.たとえば,今回出品されている,エキソニモの作品《ナチュラル・プロセス》(2004-)は,当時見た時と,そこから14年を経た現在,どのように見え方が変わるのか.現在において作品を作り直したりアップデートしたりするのではなく,作品自体が異なる時代状況の中に置かれた時にどのように変化するのだろうか.現在の時代状況を表すものが,同時代につくられた作品であるとは限らないということも言えるでしょう.極端に,100年前につくられた作品が,現在を照射することもあるということです.そのような,過去から照射される現在ということも「イン・トランジション」の考え方と言えるかもしれません.

メディア・アートについて,テクノロジーのあり方がどのように社会を変えるのかということを考えた時,そこにはテクノロジーを用いた表現がどのように変わるのかということも当然関わっています.一方,それだけではなく,テクノロジーによって触発された表現が,もう一度テクノロジーを照射する.それによって,またテクノロジーの見方が変わり,私たちの意識や社会を変える力になりうる.そういうサイクルを起こしていくことが,メディア・アートの営みなのではないかと考えています.今回の展覧会が,そうした営みを考えてもらえる機会になればと思っています.

[畠中実]


会期中には,展覧会を,よりお楽しみいただけるよう,出品作家によるイヴェントやギャラリーツアーなどの関連イヴェントを開催します.初回のギャラリーツアーは,17日(日)に開催します.今月の23日(土)には,新進作家紹介コーナー,エマージェンシーズ!で展示中の柴田真歩によるギャラリー・トークを開催します.こちらは,通常のアーティスト・トークとは異なり,作品を前にして,展示室(ICC ラウンジ・ウエスト)で行ないます.より間近で話を聞くことのできる機会です.こちらもふるってご参加ください.

また,オープン・スペースの関連コンテンツとして,出品作家へのインタヴューを「チャンネルICC」のポッドキャストで順次公開していきます.現時点では,ジェームズ・ブライドル(英語音声のみ.追って抄訳を公開する予定です.),宇治野宗輝柴田真歩のインタヴューが公開されています.作家自身が語る展示作品の背景をお楽しみいただければと思います.

みなさまのご来館をお待ちしております!


オープン・スペース 2018 イン・トランジション
会期:2018年6月2日(土)─2019年3月10日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
開館時間:午前11時─午後6時
休館日:月曜日(月曜が,祝日もしくは振替休日の場合翌日.ただし2/11[月]は休館,2/12[火]は開館),保守点検日(8/5,2/10),年末年始(12/28-1/4)
入場無料

「オープン・スペース 2018 イン・トランジション」ギャラリーツアー
日時:2018年6月17日(日),7月15日(日) 各日とも午後2時より
定員:各回20名(事前予約不要)
参加費無料

オープン・サロン「オープン・スペース 2018 イン・トランジション」出品作家によるイヴェント 
ギャラリー・トーク 柴田真歩(エマージェンシーズ! 034)

ゲスト:谷口暁彦(アーティスト,多摩美術大学美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース講師)
司会:畠中実(ICC)
日時:2018年6月23日(土)午後2時より
会場:ICC ラウンジ・ウエスト(エマージェンシーズ! 034 展示室)
入場無料
*本イヴェントは,展示室内での開催となるため,ご来場多数の場合は入場制限をさせていただく可能性がございます.
あらかじめご了承ください.