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和田夏実のインタヴュー公開

2018年1月31日 17:00

和田夏実

「チャンネルICC」内のポッドキャスト・サーヴィスで,「オープン・スペース 2017 未来の再創造」出品作家,和田夏実さんのインタヴューを公開しました.この記事では,インタヴューの内容をテキストでご紹介します.

「オープン・スペース 2017 未来の再創造」出品作家インタヴュー
和田夏実(エマージェンシーズ! 033 出品作家)

私は,基本的にいつも身体性の異なる方々と一緒に作品制作や研究を行なっています.私たちは,自分の五感によって世界を認識していて,それによっていろいろな記憶や体験を構成していると思うのですが,実は全く違うパラレルワールドのような並行世界として,異なる感覚や身体を持っている方々が認識している世界が一体どんな世界なのかということにすごく興味があって,いつも一緒に共同作品を制作しています.

今回は,「暗黙知」をテーマに三つの作品を展開しています.「tacit creole」というタイトルは,マイケル・ポランニーが述べた「暗黙知(tacit knowing)」という概念が元になっています.私たちは日々の生活の中で,言葉にできることと言葉にできないこと,無意識の体験などを持っているのですが,その中でも言葉にできないものの方が多くを占めていると言われています.そうした言葉にできないものは,他者と共有ができずに自分だけの経験として残っていったりするのですが,隣の人や家族の言葉にできない感覚を,どうやったら探ることができるのかということに興味があって,作品として作ってきました.

一つ目の作品は《altag》というもので,サウンド・デザイナーの野澤幸男さんと制作しています.野澤さんは,9歳の時からオーディオ・ゲームをずっと作っている方で,私より年下で20歳なのですが,すでに50作品くらい作られています.彼自身は,音と触覚で世界を認識している方なのですが,彼が作る「音の迷路」がすごく面白くて,例えば,足音を鳴らした時に右と左に反響音が広がっていったら,そこには右と左の両方に道があるということだったり,歩いていく時に,前から風が吹いてきたら「前に道があるんだ」と認識できる.そうしたことから,音だけで道を作ったり,木を作ったり,空間を作ったりして,ずっとゲームや迷路の作品を作られています.私と野澤さんは一緒に歩く時に私の肘を彼が持つ形で歩くのですが,その時に二人でいつもやっている「機械学習ごっこ」という遊びがあります.カメラを通した画像処理によって,世界のいろいろな物を機械が認識できるようになってきたので,それを私たちの世界に実装したらどうなるだろうかというゲームで,例えば椅子だったら「椅子」,机だったら「机」,テレビだったら「テレビ」というように,街を歩いている時に,「人,人,人,人,人」,「看板,看板,看板」,「犬」,「道」,みたいな単語をずっと言いながら二人で遊んでいます.

そのゲームをしている時に,人といっても,女の人なのか男の人なのか,犬なら「犬」って言った方がいいのか,「ゴールデン・レトリバー」って言った方がいいのか.「いや,ゴールデン・レトリバーはわからないので,別にいいです」とか,そういったやり取りの中で,それが言葉による「ラベル」として入ってくるのではなくて,もっと音として入ってきたらどんな体験になるんだろうということを二人で話し合いました.音は,例えば足音など,物と物の接点にしか存在していないのですが,そうではなくて,椅子自体から音がするとか,机から音がするなど,自分がセンサーになって認識したところから音がするという,世界のあらゆる物に音をタグ付けしていくことで,世界をゼロから音で作ってみる,世界を再構築してみるということを野澤さんとやってみたいと思いました.それが《altag》システムになっています.今回,展示としては,空中にぶら下がっているさまざまな色と形のカラーブロックに音が付けてあるという状況です.白い被り物を被ってカラーブロックの中を歩いていただくと,思ってもみなかったような生々しい音がします.それは実際に聞いていただけたらと思うのですが,物に音を付けるというシステムから,ふだんはただの積み木のような四角い物体から,石みたいな音がすることで,ザラザラとした触感や重みがあるように感じられたりします.カラーブロックは全部触っていただけるので,触り心地と音を楽しんでいただけたらと思っています.

二つ目と三つ目の作品は,ダンサーの南雲麻衣さんと,プログラマーの児玉英之さんと一緒に作ってきました.

南雲麻衣さんは,5歳からずっとダンスをされている方なのですが,私と南雲さんはいつも手で会話をしています.南雲さんは音のない世界で生きていらっしゃる方で,彼女と会話をする時は,いつもすごく目を使って,手と目と顔とを使いながらコミュニケーションを取っています.音声言語では,椅子に「椅子」という名前を付けたり,机に「机」という名前を付けたり,虹色があった時に「緑と青と赤と黄色」というように,私たちはどんどん世界を細かく細かく分けていって,それぞれに名前を付けて世界を認識していると思うのですが,「手話」という視覚身体言語では,手でその物の形を作るようにして,そこに「像」を作るというか,見えない彫刻のようなものを作るようにして会話をしています.そうした手話の中で出てくる,彼女の記憶や体験がありのままに伝わってくることがすごく面白くて,それを元に今回は「an image of」という実験映像群を展開しています.

「an image of」は,「of」から先は手で作っているので,括弧というか,音にならないのですが,それらの作品三つとも,言葉としての手話はなくて,「像」というか,手で何かを表わしている様子を何度もずっと見続けていただくと,鑑賞者の頭の中に像ができていくようになっています.《記憶の中の遊び》では二人の夫婦が小さい時にしていた遊びについて話していて,《2075》では,スウェーデンの子どもたちが未来の都市や移動手段などについて話しています.《りんご》では二人の男女が,りんごについての想像を膨らませて,りんごを奪い合いながら,想像の世界を作っています.どれも手を使ってはいるのですが,手話を全く知らない人にとっても,「何だろう」とずっと見ていただくと,頭の中に像ができていきますし,「わからないかな」と思うと,全くわからなくなってしまうというような構造になっています.結構頭を使うので疲れてしまうかもしれませんが,何をその場で形作っているのかを,ぜひ探していただけるとうれしいです.今回は,映像作品なのですが,空間に像を作る,ある種の彫刻として展開しています.

最後の《Signed》は,3年前にICCの研究開発コーナーで,所属している慶應義塾大学 筧康明研究室での「HABILITATE」という展示で,2014年ヴァージョンとして発表させていただきました.その時は,「こんにちは」という言葉を鏡の前で表わしていただいて,その人その人の「らしさ」を,フォントで表現するというものでした.今回は,鏡の前で「眠る」という動きを表現していただくと,その人にとっての「眠る」という身体の感覚,「眠る」と言われたときに,何が一番その人にとっての「眠る」なのかが,鏡を通して収集されていって,右の壁面にプロジェクターでどんどん投影されていきます.

実は,今回の展示期間の3か月間で,ご来場いただいたお客さんの「眠る」を収集していって,少しずつ右に映し出される映像が変わっていくものになっています.1月末から2月あたりからまた,いままで集めたデータを元にどんな表現が出てきたのかが見えてくると思います.言葉で「眠る」と言った時には一つしか表わせないものが,記憶や体験として残っている「眠る」を身体で表わしてみると,一人ひとりの中の「眠る」が全然違うものであることがわかったり,自分が思い描いていたものと全然違う表現が見えてきたりするので,そういうところを楽しんでいただけたらと思います.



なお,2月24日(土)午後2時からは,アーティスト・トーク 和田夏実を開催します.ゲストには,本インタヴューでも言及された共同制作者の野澤幸男さん,南雲麻衣さん,映画や舞台などで活躍されている俳優の川崎ゆり子さんをお招きします.
みなさまのご来場をお待ちしております!


オープン・サロン「オープン・スペース 2017 未来の再創造」出品作家によるイヴェント 
アーティスト・トーク 和田夏実(エマージェンシーズ! 033 出品作家)

日時:2018年2月24日(土)午後2時より
会場:ICC 4階 特設会場
定員:150名(当日先着順)
入場無料
手話通訳つき
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

オープン・スペース 2017 未来の再創造
会期:2017年5月27日(土)—2018年3月11日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
開館時間:午前11時—午後6時
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日.なお,2/12[月]は休館,2/13[火]は開館),保守点検日(2/11)
入場無料
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

[N.K.]