チャンネルICC
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]は,1997年4月19日,いまから20年前の今日開館しました.
日本の電話事業100周年(1990年)の記念事業として始まったICCは,91年に,電話回線を使用して電話やファクシミリを介してアーティストの声やサウンド,ドローイングやテキストなどを受け取ることができる,「電話網の中の見えないミュージアム」,95年には商用化されて間もないインターネットのサイバー空間を会場にした「on the web ネットワークの中のミュージアム」を開催し,また,ネットワークを介して遠隔地の映像や音声をリアルタイムに伝送するテレプレゼンス(遠隔現前)技術による作品を紹介してきました.
以来97年まで,開館までの7年のプレ活動期を経て,「加速する情報社会に連動した新たなミュゼオロジーの実践」(InterCommunication No.21 Summer 1997)を目指す「想像力の未来を予告するミュージアム」として,初台の東京オペラシティに,センター=拠点として誕生しました.
ICCは,磯崎新の企画による,「『海市』──もうひとつのユートピア」展と「OPEN STUDIO 岩井俊雄展──そのメディア・アートの軌跡」のふたつの企画展,そして,10の委嘱制作作品のコレクションによる常設展示によって始まりました.
開館時から2000年まで行なわれていた常設展示は,インタラクティヴな「体験/参加型」の,作品が単体で完成されない,観客自身の参加による相互作用によって成立する作品,センサー技術,リアルタイム・レンダリングなど,コンピュータの性能の向上や,ヴァーチュアル・リアリティといった同時代の先端テクノロジーとそれらを利用した科学的成果が可能にした表現を中心に構成されていました.それらは,当時としては新しい表現形式だったメディア・アートへの入り口としての役割を果たしました.
また,ICCの開館は,96年の,オーストリア,リンツのアルス・エレクトロニカ・センター(AEC)や,97年の,ドイツ,カールスルーエのZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター)の開館など,世界の動向とも連動していたのも特徴でしょう.
97年当時,メディア・アートは現在の何十倍もの価格のコンピュータや,個人では扱えるものではなかった機材がたくさん使われており,まだ目新しさだけが先行していた感もありました.しかし,2000年以降には,そうした技術がより身近になり,特権的な立場にいるアーティストだけのものではない,より開かれた環境を獲得していきます.
そして,現在のメディア・アート的な表現は,より一層,そうした現在のメディア環境に依拠した広がりを持ってきています.メディア・アートをはじめとしてゲームなどのエンターテインメントやアニメーションなどが「メディア芸術」として総称され,また工学的な領域も含め,それらを横断しつつ,より広範な動向へと広がっているとも言えるでしょう.近年では,エンターテインメントやアミューズメントの要素を持った表現としても展開され,より一般に認知されるものとなった感があります.
そうした同時代の技術環境,文化環境においてもなお,来るべき未来に対してどのようなヴィジョンを提示することができるか,といったことがICCの変わることのない役割なのだと思います.
20年とは,これまでに行なってきたことをアーカイヴの助けなしに覚えていることがむずかしいくらいの情報量と時間経過ですが,これまでの20年を経て,2020年を超えて,さらにこれからの20年を見据えた活動を展開して行きたいと思います.
近日中に今年度のスケジュールも発表される予定です.どうぞご期待ください.
畠中実(ICC主任学芸員)