チャンネルICC
「オープン・スペース 2016 メディア・コンシャス」が始まって2週間が経ちました.
本展では,エキソニモの出品作品《Body Paint - 46inch/Male/White》と《Heavy Body Paint》が,展覧会の内覧会および会期初日である5月27日(金)と28日(土)に,事情により不在となってしまいました.
その代わり,この二日間はエキソニモの指示により特別な「展示」が設置されていました.本記事では,そのことにについてお伝えします.
まず,作品不在となった経緯も含めて,主任学芸員の畠中によるテキストをご紹介します.
エキソニモと仕事をするということは,ややこしいこと,面倒くさいことに巻き込まれるのを覚悟するということだ.それは,彼らがややこしかったり,面倒くさかったりする人間だという意味ではけしてない.それどころか,むしろ彼らは大変クレバーでスマートなアーティストだ.ICCでのこれまでの展覧会でも,何か問題に直面しても,すぐにテクニカルにとてもあざやかな手つきで切り抜ける.または彼ら独特のウィットで,するりと問題をかわしてしまう.そして,それが結果としてなんだかすっきりと決着がついてしまう.そんな彼らを頼もしく思いもする.
2009年の作品《ゴットは、存在する。》 と2010年の展覧会「可能世界空間論」にいたる,共に行なった一連の研究会や実験の数々,やはり2010年の展覧会「みえないちから」や2012年の「[インターネット アート これから]——ポスト・インターネットのリアリティ」といった企画展でも,よくよく考えるとずいぶんと彼らにはお世話になっている.特に「[インターネット アート これから]」では,批評筋にはほとんど言及されることはなかったが,展覧会オープン間際になって当初予定していた作品の貸出し許可が得られず,展示がかなわなかった.それを逆手に取って,新作として《A Web Page - 403 Forbidden》を制作してしまったのには,ほんとうに驚いた.そんなふうにいつもヒヤヒヤさせられながらも,結局最後は作品でキメてくれる,それがエキソニモなのだった.
が,今回は輸送上のトラブルで作品の到着が遅れそうだという,なんともどうにもしようのない事態に直面した.展覧会の内覧会に,おわびとともに,がらんとしたからっぽのエキソニモの展示ブースが出現してしまうのか,という寒々しい,悪夢のような状況を誰もが思い浮かべていただろう.そんなところに,彼らからメールが届いた.「遅刻のいい訳(パフォーマンス)」という件名の,(いい意味で?)イヤな予感のするメールは,「作品がオープニングに間に合わないのを逆手に取って,オープニングの時にちょっとしたパフォーマンス?をしたいと思います.」と書き出されていた.一読して,これでさらに招待客が怒り出したりしないだろうか,という心配が一瞬頭をよぎる.しかし,どうせ最短2日,やってしまえ,と組織内調整を行なった末,それは決行された.しかして,内覧会当日,エキソニモの展示ブースには,彼らからのイカしたメッセージとともに,マーマレードジャム,ピーナッツバター,ブルーベリージャムをぬられた3枚の食パンが展示されたのだった.
会場では,彼らからのメッセージを読みながら微笑んだり,食パンが本物か確かめるため,近づいたり,匂いをかいだりしている方々が多数いらっしゃいました.
では,掲示されていたエキソニモの二人からのメッセージを公開します.
南アメリカでは、待ち合わせに遅れてくることは一般的で、ほぼ時刻通りに着く人もごく一部いるが、そうした人は、自分以外の人は遅れてくること、遅れてくる人の数のほうが多いことを「当たり前」と思っており、遅れてくる人を責めたりしない。たまたま他の人より早くついた人は、のんびりと友人・知人を待ちながら、早く着いた者同士で、楽しくお喋りを楽しむ文化がある。
アメリカ人の16%は週に1度以上遅刻し、また27%は月に1度以上遅刻をしている、ということが明らかになった。遅刻をした米国人が述べた理由を上位から挙げると次のようになる。
交通渋滞(31%)/ 睡眠不足(18%)/ 悪天候により(11%)/ 子供を学校に連れて行ったため。子供の面倒を見るため(8%)
ほんの80年ほど前までは、日本でも遅刻することは一般的で、人々は時間におおらかであった。例えば明治初期に工業技術を伝えに来日したオランダ人技術者たちは、日本人がまったく時間を守らないことに呆れ、困り果てたという。それくらい日本人は時間におおらかで、遅刻にもおおらかであったのである。その後、日本で時計が普及し、定時法などの西洋の時間のシステムが導入されても、人々はあいかわらず時間にはおおらかで、工場では遅刻が一般的で、鉄道なども遅刻は当たり前であった。
( 引用元 : wikipedia [https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%85%E5%88%BB])
こんにちはエキソニモです。本日はICC Open Space 2016 - メディア・コンシャス展に足をお運びいただき、ありがとうございます。インターネットが世界を覆い尽くし、ありとあらゆる情報が瞬時に届く時代になりました。地球の裏側、ニューヨークの路上で思いついた他愛もない冗談が、数秒後に東京の友人を笑顔にする、一昔前には考えられなかった状況が現実となっています。
しかし、情報が獲得した自由でグローバルな飛躍的能力に対して、物質(我々の身体も含む)の持つ能力は、前時代のままに置き去りにされています。毎日の定められた反復運動(例えば通学)を実行するために、取りそこねた朝食を移動中に食パンを咥えることで補いつつ、曲がり角で他者と衝突するリスクを常に取りながら、敢行することを余儀なくされ続けています。
このままで本当に良いのでしょうか? このままでは情報と物質の格差は広がる一方です。このような捻じれ構造を放置したままでは、目の前に立ちはだかる壁は、その壁としての存在感を一層増し、未来へのロードマップは真っ白なままになってしまいます。
そこで我々エキソニモは立ち上がりました。メールソフトを立ち上げました。この声明を打ち込み、数秒で東京へと届けることに成功しました。
みなさま安心してください。宇宙が生まれて137 億年、地球が生まれて46億年、人類が生まれて800万年、ICC オープンスペースがスタートして10年。そして想像してください。我々の血の中に息づく80年前の日本人を。今夜には全ての物質は到着し、近日中に公開されることでしょう。とても
スピーディだと思いませんか?
後日また理由をつけて、是非 ICC へと足をお運びください。その際には、鈍重な物質である身体を、無理に加速させることで、曲がり角で他者と衝突しないよう、くれぐれもご注意ください。
エキソニモ
2016年5月27日 ニューヨーク・ブルックリンのスタジオより送信
その後,作品は無事到着し,5月29日(日)から本来の展示がスタートしました.
この二日間だけの「パフォーマンス」が,新作《Heavy Body Paint》のどのような伏線となっていたのか,なぜ食パンだったのか,などなど,ぜひ身体という物質をICCに移動させて,作品を見ながら考えていただければと思います.
みなさまのご来館をお待ちしています!
オープン・スペース 2016 メディア・コンシャス
会期:2016年5月28日(土)─2017年3月12日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
開館時間:午前11時─午後6時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合翌日),年末年始(12/29─1/4),保守点検日(8/7,2/12)
入場無料
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
[Y.Y.]