天井から12個の枠が吊るされています.枠の素材や大きさは共通ですが,鏡が入っているもの,スクリーンが張られているもの,なにも入っていないものという違いがあります.鑑賞者が作品のなかを移動すると,鏡に映る鏡像,ヴィデオカメラを通してスクリーンに投影された映像,また空の枠ごしに見る実際の像,さらにそれらの組み合わされた像によって,思わぬかたちで自分や他の人の姿を目にし,いわば視線の迷路に入り込むことになります.
鏡や枠は,津田がこれまで発表してきた映像作品にたびたび登場してきました.鏡は,絵画の歴史においても伝統的なモチーフのひとつとして知られています.ただの空の枠を通して見るだけで,その中の情景が「いま・ここ」の世界から切り離されているように思えることもあるように,カメラで写真や映像を撮ることも,現実からある特定の世界を切り出すことであるといえます.
津田にとってこの形式を使ったインスタレーションはこれが三作目です.このシリーズでは,鑑賞者が作品のなかで自由に動き回ることによって,自分が見ているものがどのような過程を経て映りこんでいるのか,探っていくことになります.本作品では,録画された映像を用いることによって,新たに時間という要素が加えられています.