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「“感じる”インフラストラクチャー 共感と多様性の社会に向けて」展  その背景

2018年11月 7日 15:00

現在開催中の特別展「“感じる”インフラストラクチャー 共感と多様性の社会に向けて」では,NTTの研究所に所属する研究者をはじめ,外部のアーティストや協力機関とのコラボレーションによる作品や取り組みを展示しています.ここでは,展覧会の企画意図や背景について,NTTコミュニケーション科学基礎研究所 主任研究員の渡邊淳司さんと,ICC主任学芸員 畠中実による対談をお届けします.


畠中

「リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC」は,ICCが開館20周年を迎えた昨年度に始まった取り組みで,NTTサービスエボリューション研究所2020エポックメイキングプロジェクトがICCと協働しながら進めている企画です.今回の「“感じる”インフラストラクチャー 共感と多様性の社会に向けて」は,オープン・スペースキッズ・プログラムに続いて,「リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC」が参画する今年度3つ目の展覧会になります.本展覧会では,通信事業会社であるNTTが2020年に向けてどのような社会的基盤作りに取り組むのかということで,特に「共感」「多様性」ということがテーマになっています.共感というのは,自分にとっての他者をどのように理解し,関わることができるかということだと思いますが,そこでは解り合えなさというものが前提になります.関係性の薄い人たちだけでなく,そもそも身体的な障がいを持っている方とか,どうしても解り合えない部分を持つ人たちとの間を,どのように結びつけていくかということを取り上げています.

NTTの研究所とICCの協働は,実はICCの活動当初から考えられてきたことといえます.例えば,ICC開館時から無響室で常設していた三上晴子さんの作品の制作にあたっては研究所の方にご協力いただいていますし,研究所の技術とアーティストのアイデアで何かを作るということは,開館時からひとつのミッションだったと言ってもいいかもしれません.以降,そういったものが定常的にあったというわけではないのですが,常にそういう取り組みの可能性は意識していたところはありました.それが,ようやく20周年にしてというか,最近,技術に対するアプローチや,メディア・アートの領域が研究所の実践と重なり合うところも増え,研究所とICCの親和性が高くなってきたということも背景にあるかもしれません.

渡邊

研究所側から考えると,技術によって何らかの機能を実現することができたとしても,それが社会の中でどのような意味をもつのかということを知る必要があります.アーティストと仕事をすると,その意味が立体的に見えてくるということがあります.また,最近顕著なこととして,人間に関する技術であればあるほど,作りながら公開し,それを使ってもらって,改善していくという,作る人と使う人が不可分の循環システムのような物の作り方,サーヴィスの作り方が生まれています.そう考えると,企業の研究所であればなおさら,技術と社会の関わりを実験的に作っていく営みが重要になってくると思います.

畠中

これまでは,新しい技術が開発されて世に出ても,一度受け入れらなかったら消えてしまう.その時点では早すぎたとか,いろいろな理由で消えてしまう.アートには,それをもう一度救っていく作業というような面もあります.例えば,それがメディア・アートと呼ばれるものなのではないか,と.

渡邊

それだけでなく,機能を作る人と意味を発見していく人の分業も曖昧になっていて,一人の人間がエンジニアとして何かを作り出すだけでなく,作品展示という形で,自分で技術を批評するようなオルタナティヴなプレゼンテーションのあり方が生まれています.技術の別の側面,オルタナティヴな意味づけは,作る人とは別の人が行なうイメージがあったのですが,現在だと,組織自体が意識的にオルタナティヴな活動を内包していることもあります.開発と批評が常に同時に存在することは,社会における技術の浸透にも大きな影響を与えます.

例えばNTTは,できるだけ多くの人に対して,誰にでも伝わるためのインフラストラクチャーを提供してきた会社ですが,その一方で取りこぼされる部分もあるはずで,それをどうやってすくい上げるかというのが本展覧会のテーマといえます.例えば多様性という言葉はそうですし,“感じる”という言葉も,感覚は伝わらないというところから始まっています.“わかる”インフラストラクチャーではない,そのオルタナティヴとして“感じる”インフラストラクチャーがあってもよいのではないか,というのが本展の企画の始まりといえます.

畠中

伝える仕組みをつくるといっても,“何を”伝えるか,“何が”伝わるか,を考えなくてよいわけではない.伝え方によって通信技術それ自体が,何かを伝えることができるのではないか.例えば,電報は台紙などのデザインを追加することで,何を伝えるかというメッセージを変えるわけですよね.祝電だったら鶴が入った台紙を選んだりしますが,電話で同じことができるか? というのはありますよね.インフラはそこまでしなくてよいという意見もあるでしょうが,でも果たしてそうか? というようなところを提起していく.今,技術的にさまざまなことが可能になってきて,その上でどういうコミュニケーションを作っていったらいいのか,ということに介入していく.電報なのか,電話なのか,伝えたい内容によってメディアを変えていく.それがメディアのメッセージだから.どのメディアで伝えるかによって,伝わるメッセージは変わるのだという発想.そうすると,いろいろな用途に適した電話があっていいことになる.自分の気分に応じた通話の形があるべきだということになる.

渡邊

メディアがメッセージ,インフラがメッセージという話に近いのかなと思います.計測機器とか伝送系みたいなインフラ自体が,既に人にとって潜在的なメッセージであり,それを編集できるようになった時,一体何がありうるのかということが個人的にはすごく気になっています.そんなこともあって,今回,さまざまな人と議論したり,一緒に展示を制作したということがあります.身体から生み出されるものを内省的に感じたり,人と人のあいだに生まれるコミュニケーションのリズムを可視化したり,自身の身体的な態度を実在化するなど.また,全く異なる身体を持つ人とのあいだはどのようにつながれるのか,そもそもつなぐという考え方が正しいのか…….

畠中

電話は,相手のシチュエーションを考えずにはたらきかけるメディアだとよく言われますが,「伝えたい」ということの方が先にあるメディアだったと言い換えることもできます.一方で,自分のことだけでなく相手のことも考える,あるいは,自分のことをどう知るかみたいなメディアとして通信があってもいいのではないか.自分のことをどうわかるかといったことは,もともと通信という技術においては必要とされていなかったのかもしれないけれども.

渡邊

コミュニケーションは,相手に一方的に言葉を投げつけあっているということもできるわけですが,それがどういうリズムとか文脈とかそのログを振り返ることができるんですよね.コミュニケーションのためのテクノロジーが,内省のためにも使われるとか.

畠中

展覧会の構成としては,自己との対話から始まって,二人の会話,そして集団での共感へ至る,というコミュニケーションのあり方のヴァリエーションを追っていく流れと,もうひとつ,内省か他者とのコミュニケーションかという二つの軸があるように思います.今,会場に並んでいるのは前者を想定したものなんですが,「スポーツ・ソーシャル・ビュー」と《+3人称電話》が入れ替わることによって,展示構成の意味あいが変わってくる.そういう意味では,順路にこだわらず自由に見ていいということになるのだけど,むしろ要素——例えば個人とか集団とか内省と共感といったテーマと,目の見えない人とスポーツを見る,つながりのない集団でスポーツをドローンで楽しむ体験など,テーマがどういうふうにつながるかを見ていけるといいのではないかと思いました.


【会場見取り図】

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1

《all around》田中みゆき,長嶋りかこ,渡邊淳司

3

「スポーツ・ソーシャル・ビュー」NTT サービスエボリューション研究所+伊藤亜紗(東京工業大学)

4

《+3人称電話》NTT サービスエボリューション研究所+Dentsu Lab Tokyo

5

《ハコドローン》橋口恭子+鈴木督史+千明裕+山口仁

6

《Swarm Arena とグラウンドボット》NTT サービスエボリューション研究所+アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ

7

《Flying Dog》千明裕,五味裕章,小川秀明,ニコラ・ナヴォー

 


特別展 OPEN STUDIO リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC
「“感じる”インフラストラクチャー 共感と多様性の社会に向けて」

会期:2018年10月13日(土)—11月18日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
開館時間:午前11時—午後6時
休館日:月曜日
入場無料

主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
企画構成協力:リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC