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ジェームズ・ブライドルのインタヴュー抄訳

2018年7月 4日 14:30

「チャンネルICC」内のポッドキャスト・サーヴィスでは,「オープン・スペース 2018 イン・トランジション」出品作家のジェームズ・ブライドルのインタヴューを公開しています.今回は,インタヴュー内容の抄訳をご紹介します.


「オープン・スペース 2018 イン・トランジション」出品作家インタヴュー
ジェームズ・ブライドル


ジェームズ・ブライドルです.ライターやアーティストとして,新しいテクノロジーがもたらす社会や文化への作用を理解しようと,テクノロジーを用いた様々な取り組みをしています.テクノロジーがどのように機能しているかだけでなく,私たちがどのようにテクノロジーを理解するのかということを特に扱っています.どちらも同じくらい重要だと思うからです.結局のところ,テクノロジーは,私たちがこう動くだろうと考えたり,こういうものだと理解したりする通りに機能するのですから.

この展覧会では,自動運転車についてのリサーチから生まれた作品を2つ出展しています.私は自動運転車に非常に関心をもっています.なぜなら自動運転車は,私たちが実際に手に入れた「未来」のひとつだからです.もし50年前に遡って,未来ではどんな素晴らしい生活が待っているか書かれた本を読んだとしたら,確実に自動運転車は私たちが手に入れているであろうもののひとつに挙げられているはずです.自動運転車は未だに極めて未来的なものです.それらがまさに退屈なものになろうとしていることを除いては.ベーシックな自動運転車はすでに購入できますしね.

ベーシックな自動運転車は面白味がありません.そのつまらなさは世界を退屈にしています.驚くべきSF的未来が到来したというのに「退屈」とは奇妙な話かもしれません.とはいえ,私たちは自動運転車について充分に考察したとはいえません.自動運転車はあまりにも早く実現したために,私たちには考える時間がなかったのです.

というわけで,自動運転車についてより考えたいと思い,今回の作品を制作しました.特に,自分自身で自動運転車を作ろうと試みています.あらゆるテクノロジーを理解するために私にとって唯一正しい方法は,その技術を実際に使って作業をすることだからです.

テクノロジーを勉強し,コンピュータ・サイエンスの学位を持っていますが,私はテクノロジーにすごく詳しいわけではありません.むしろ私がしているのは,誰でもできることだと思います.インターネットには充分な情報が存在し,誰でも使用できるフリーソフトウェアがあります.DIYで自動運転自動車を作るのに役立つオープン・ソースのソフトウェアも.私はそれらを使ってニューラル・ネットワークと呼ばれる非常に単純な人工知能を作り,私が運転する様子をその人工知能に観察させて,運転を学ばせました.

私は普通の車の至る所にカメラを設置し,また車輪の操舵を感知するセンサーを作って,基本的に私自身の運転を記録しました.なので,このソフトウェアは私がいつハンドルを切るか,どのように加速するのかわかっているのです.このソフトウェアは,車の運転があまり上手くありません.なぜなら,そのソフトウェアがあまり良くないというのと,私の運転もあまりうまくないからです.ともあれ基本的にそのソフトウェアは車の操作を習得しています.

この作品を制作していたとき,ちょうどギリシャに引っ越して間もなかったことも,私が非常に興味を惹かれたところでした.このとき私は,自動運転車以外をテーマにした作品を作るつもりはありませんでした.私は車で自分が住んでいるアテネを出て,山に向かいました.山々をドライブしたら楽しいだろうと思ったのです.景色もきれいですしね.そして,私は運転が素敵なものであることを思い出しました.そして,自分が運転をとても楽しんでいることに気づき,なぜ私たちはロボットに運転をさせようとしているのだろうかと思いました.さらに,自分が登っているのがパルナッソス山だということに気づきました.

古代ギリシャ神話では,パルナッソス山は美術や創造に関するものを司るミューズの住まいでした.ですから,神話において「パルナッソス山を登る」ということは,学びを得るということであり,より創造的になるということ,芸術自体を極めることを意味します.パルナッソス山に登るためにテクノロジーを作るなんておかしなことですが,実は私たちはこのようなことを絶えず行なっています.つまり,テクノロジーには人間のために働く一方で,私たちから思考し理解する機会を奪ってしまう面がありますが,それを自分で制作することで,私たちが知識を得る方法を“ハッキング”しようとしているというわけです.

《勾配上昇法》2017年

今回展示している映像作品のひとつめは《勾配上昇法》です.勾配上昇法は人工知能の機械学習で使われる用語で,機械がどのように世界を理解するかという手法を指しています.そしてそのやり方は,人間にはとうてい理解できないものになっています.

いま私が人工知能に関して最も面白いと思っていることのひとつは,人工知能というものを理解することが人間にとって非常に難しいという点です.私たちは機械がどのように学習するのかを真に理解してはいません.機械は確かに学んでいます.しかし,実際にどう学んでいるのか,私たちが知ることはない.私たちはいま,自分たちと異なる方法で世界を認識する機械たちと突然世界を共有することになるという,非常に奇妙な立場に置かれているのです.

《オートノマス・トラップ 001》2017年

2作品目は《オートノマス・トラップ 001》です.もしもあなたが,テクノロジーの政治性について考えていて,テクノロジーが世界に影響を与える方法そのものに影響を与えたいのであれば,まずはテクノロジーを理解する必要があります.そうすれば,そのテクノロジーがどういうものか規定し,それが何をするかについて誰もが決定権をもてるようになります.一方で私は,止めることができること,停止ボタンを手に届く場所においておくことも本質的に重要だと考えています.それは,制御可能であることの一部です.このオートノマス・トラップは,自動運転自動車を止める手段なのです.

ヨーロッパでは,二本の線は進入禁止を意味します*.この作品の車は,円の中に入らされてしまいます.規則を破らないと外に出ることはできませんが,ロボットはできれば規則を破りたくないものなのです.人間である私たちは,そこを突くことができるわけですね.この塩で描かれた円の形は,魔法の装置のようでもあります.神話や魔法のようなものが,ちょっとした力として,今日まで使用され続けているのです.

*訳註:車線変更ルールでは,破線と実線が2本並んでいる場合,破線側からは進入できるが,実線側からは進入できない.《オートノマス・トラップ 001》では,二重に描かれた円の外側が破線,内側が実線のため,円の外側からは進入できるが,いちど内側に入ってしまうと,ルールを遵守する限り出ることができない.

「罠」というのは非常にアグレッシヴな,踏み込んだ表現ですが,私自身はとても気に入っています.この作品の車を止めるという目的自体がそもそも超攻撃的ですし.これは,共有空間を見出すことについての作品でもあります.人工知能と人間は世界を異なる方法で見ているし,ほとんど別の世界に住んでいるといってもいいでしょう.私が探求しているのは,人工知能にも人間にも見える何かなのです.

塩で描かれたあの円は,人にも,車にも,テクノロジーにとっても見えています.なぜ,テクノロジーにも人間にも見えるポイントを見つけようとしているかというと,そここそが一種の共有空間になりうるからです.この罠が非常にアグレッシヴなものであったとしても,私が車と戦い始めたように感じられるとしてもです.私はまた,実際に両者がコミュニケーションを取ることができる空間を発見したいと思っています.願わくば,この作品が協力やコラボレーションのようなものの始まりになるといいなと思っています.以上が,2作品の説明になります.


オープン・スペース 2018 イン・トランジション
会期:2018年6月2日(土)—2019年3月10日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
開館時間:午前11時—午後6時
休館日:月曜日(月曜が,祝日もしくは振替休日の場合翌日.ただし2/11[月]は休館,2/12[火]は開館),保守点検日(8/5,2/10),年末年始(12/28-1/4)
入場無料
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

[T.R.]