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アラカワケンスケ《そらいろ》

美しい淡い色が印象的な,有用性とデザイン性が見事に結実した完成度の高い作品だと思う.お正月のまゆだま,あるいは,淡い色のモビール細工のようなやさしいフォルムが,風速や風向きにあわせて揺れながら,各地の気候の状態を知らせてくれる.日本らしい明るさのある繊細なデザインに,あえて天気情報のツボだけを禁欲的に使い,すっきりとしあげられた作品である.百花繚乱というマッシュアップのイメージを見事に,快く裏切ってくれた.
女の子向きかと言えば,けしてそんなことはない.目を楽しませてくれる以上に,《そらいろ》の有用性は高い.なによりも,お洒落の基本は天気である.空の色,光の強さ,雨や雲,そして温度を知らずして,美しい装いができるだろうか. 鞄に荷物を整え始める前に,旅先の空色を知る.遠距離恋愛の恋人の傘の色を想像する.遙かな土地の友人がオフィスから眺める空の色を思う.故郷の祖父が散歩する足下の影を思う.横長の日本地図をとりまく,何もないすっきりした白い空間は,こういったさまざまな空想を与えてくれる余地がある.微妙な色使いのきれいなグラフィックを眺めていると,本当は小さくて良いので温度表示があると嬉しいかなと思ったりもする.
猛暑の夏,台風の日,雪嵐の降る夜には,どのような姿を見せてくれるのだろう.楽しみである.