ICC


岡村直明《s.b.p.v_goo_yahoo》

マルコス・ウェスキャンプ

《s.b.p.v_goo_yahoo》は「今」を簡潔にとらえ,繊細な音とシンプルだが興味をくすぐる映像を通して,今をノスタルジックなひと時に変える.この作品は,リアルタイムに検索されるキーワードとgooの検索エンジンを,まったく異なった雰囲気にシームレスに融合している.そして,ソフトウェアが検索語と関連する画像を抽出して,このソフトウェアに固有の音とヴィジュアル・パターンに連動させるので,鑑賞者は,それらすべての異なる要素を組み合わせて,「今」に関するストーリーを捉えるかもしれない.
画面上の検索キーワードのサイズは,gooから受け取る事のできる検索件数によって決まっている.gooのウェブ・サーヴィスから結果を受け取った後,それに関連した画像検索のためにyahoo画像検索が利用されている.そして最後に,キーワードと音,特徴的なヴィジュアル・パターンが一つのソフトウェアで組み合わされて表示されている.

安田雪

この作品の魅力は,生き生きとした躍動感と幻惑感.最新キーワードと動画の組み合わせが,ウェブの空間の今を生き生きと伝えてくれる.動き回る円が広がり,楽しそうに跳ね,展開し,螺旋を描く.ビーズがはじけ散り,小粒の宝石のネックレスのようなモジュールが戯れる.そのあいまを最新キーワードと画像が次々に浮かび上がり,流れていく.
日本のあちこちに,互いの顔も知らず,つながりもなく点在する検索ユーザーたちのささやかな行為の蓄積が作り出す,つかみどころのないウェブの検索空間が,確かな実在として目の前に浮かび上がってくる.一人一人の指先から入力される関心・不思議・疑問・好奇心が,全体となって創発する大きな絵巻物を見ているようだ. 映像と音,画面の流れは,時間と空間の感覚が歪むような錯覚,そして,それに溺れてはいけないと抗う意識を呼び覚まさせる.その一方で,私は知っている.この続きを.もっと見たい,惹き込んで欲しいという欲望が拮抗してくることも. 怖い魅力をもったマッシュアップ作品である.

西川潔

これは新しいネットワーク・ポエム楽器の創造だ.
少しテンポをゆっくりにして,出現する円をクリックしていく.画面に静かに広がる波紋とそれに合わせて奏でられる現代音楽風の効果音.まるで楽器を演奏しているみたいだ.背景にはときどきウェブから取り出された言葉と画像が表示される.この言葉はどうやって選ばれているのだろう.完全にランダムに取り出されているのだろうか.それともネットでリアルタイムに検索されている言葉が使われているのだろうか.どちらにせよ,予想もつかない映像に出会って僕は気分が高揚する.その気持のよいノリが,画面をクリックするリズムにフィードバックされる.僕はこのアートに「ネットワーク・ポエム楽器」という名前を与えたい.ただぼーっと見るだけの美術館のアートなんて,もうつまらないと思っていた.ICCのような新しいコンセプトの美術館で思い切った展示を実現できないか.大きな部屋をひとつ専用に用意して,10メートルもあるような巨大なディスプレイを使って,この作品を楽しめるようにしたら,きっとICC展示の目玉になると思う.

高木完

既存のメディアを浸食しながら発展するフレッシュでポップな生命体的アート作品群をいくつも見させていただいて,おおいに刺激を受けました.マッシュアップ,という枠組みは,ポップ・ミュージックの現場では異なるタイプの楽曲をふたつ混ぜ合わせるスタイルなのですが,今回応募されたマッシュアップ・アート作品はいずれもそこから1歩ふみこんだものになっています.中でも大賞をとった《s.b.p.v_goo_yahoo》は,技術もさることながら,感覚としても,マッシュアップ.さらにそのルーツともいえるヒップホップの初期作品よりも遥かに前の,例えばエルヴィス・プレスリーの曲を変調させたジェームズ・テニーの「Collage #1 (Blue Suede)」 (1961)であったり,テリー・ライリーやスティーブ・ライヒの60年代テープ音楽を想起させられるものがありました.マッシュアップは基本的にポップ・ミュージックのフォーマットにのっとったものが多く,即時性が強いのですが,《s.b.p.v_goo_yahoo》は,すでにミニマルアートの領域に達している作品だと思います.