坂本龍一と高谷史郎とのコラボレーションにより,新たに生み出された《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》.音と映像のたえまない出会いが生起するこのインスタレーションは,「流動するもの,見えないもの,聴こえないもの」を 全身で感受していくかつてない場となるでしょう.
《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》は,世界的に高い評価を受ける音楽家の坂本龍一と,京都を拠点に国内外で活躍するアーティスト・グループ「ダムタイプ」の中心メンバー高谷史郎のコラボレーションによって生み出された,音と映像のかつてない出会いを創出する新作インスタレーションです.
この作品は,1999年に初演された坂本龍一のオペラ《LIFE》(高谷史郎が映像監督として参加)を起点としながら,「fluid, invisible, inaudible(流動するもの,見えないもの,聴こえないもの)」ーーというタイトルに見られるように,21世紀を迎えてしばらく経った2007年において,《LIFE》を,その音や映像をリソースとしつつ,まったく異なる作品として解体,進化させたものです.20世紀末において,オペラというリニアで近代的な方法に対して行われた実験が《LIFE》であるとするなら,インスタレーションという形態をとる《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》は,ノンリニアで脱中心的な音響と映像の流動を,観客が自らその内部において体験していくものといえるでしょう.
暗い空間には,薄く水が張られた1.2m四方,30cmの高さのアクリル水槽が3×3個グリッド状に吊られ,それぞれの両端にスピーカーが設置されています.水槽の内部では超音波によって人工的な霧が発生し,透過と不透過をつなぐかのように流動的なパターンがたえず生みだされていきます.それぞれの水槽の上に設置されたプロジェクターから発される映像――水槽全体で時に連動し,時に個別の映像として出力―ーは,水と霧の織りなす動的なパターンをスクリーンとして通過することで,映像を結びつつも,たえず流れによって融解され,意味と無意味,具象と抽象との狭間をたゆたい続けます.
《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》において音と映像は,新たに加えられたものも含め,それぞれ約30と20のカテゴリーに分けられ,複数のファイルとしてコンピュータのHD内に収められています.全体をランダムに制御するプログラミングによって,これらファイルからランダムに音と映像が呼び出されることで,常に異なる様相が空間にもたらされます.
「時間の呪縛から離れたいと思った」(坂本龍一)
「映像を完璧にはコントロールできないものに映し出したかった」(高谷史郎)
二人の言葉は,通常リニアで確定的なものとして設定されがちな時間や空間を逃れて,霧という流動的な現象やコンピュータのランダムネスを,アートの新たな可能性として投げかけるものといえます.観客においても,それは例外ではありません.人々は,空間内を自由に歩き,水槽の下にたたずむことで,可視と不可視,聴き取れるものと聴き取れないものの間に潜む生きた変容の場に,自らの知覚や身体を通して立ち会うことになるでしょう.
*《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》は,山口情報芸術センター(YCAM)委嘱作品として制作され,2007年3月10日から5月28日まで同センターにて発表され,大きな反響を呼びました.
http://rsst.ycam.jp/
制作メンバー(YCAM)
坂本龍一+高谷史郎
LIFE - fluid, invisible, inaudible ...
サウンド・プログラミング: 矢坂健司[有限会社シネティクス]
ヴィジュアル・プログラミング: 真鍋大度
システム・プログラミング: 古舘健
サウンドシステム・アドヴァイス: 佐藤博康[株式会社バラッド]
マテリアル・エディティング: 泊博雅
機材コーディネート(坂本龍一): 土屋真信,毛利泰士[株式会社オフィス・インテンツィオ]
テクニカル・アシスタント(高谷史郎): 尾崎聡
アドヴァイザー: 浅田彰
[山口情報芸術センター]
テクニカル・ディレクター: 伊藤隆之
ヴィジュアル技術: 大脇理智,三原聡一郎
キュレーター: 阿部一直
[NYクルー]
レコーディング・エンジニア(NY):フェルナンド・アポンテ
プロダクション・マネージメント(NY):エヴァン・バルマー(Kab America Inc.)
リーガル・スーパーヴァイザー:スーザン・バトラー Esq.
[制作委員会]
坂本龍一/高谷史郎/空里香/高谷桜子/阿部一直