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イヴェント・レポート

ICCキッズ・プログラム 2011「トランス・スケール」レポート

2012年3月11日 11:29

撮影:木奥恵三

今回は,2011年8月13日(土)—21日(日)に開催しました ICCキッズ・プログラム 2011 トランス・スケール 「ものさし」をかえてみよう の展示やイヴェントについてレポートいたします.


今年度のキッズ・プログラムは,世界の見え方やとらえ方ががらりと変わってしまうような特別な「ものさし」を見つけることをテーマに,三人の作家,寺田尚樹さん,野老朝雄さん,鳴川肇さんの展示とワークショップを通じて,自分がどのような「ものさし」を使って世界を見ているのかを考えるプログラムを展開しました.


■寺田尚樹《1/100の世界》
全長14.4mに渡って展開されている《1/100の世界》に,紙でできた人や動物などの模型を並べることができる作品です.模型の曲げ方や街のどこに置くかを考え,自分だけの物語を作りました.

撮影:木奥恵三

撮影:木奥恵三

日々増えていく模型によって,街は賑やかになっていきました.
紙でできた建物の窓を見ると,1/100の人や動物が動いています.
(アニメーション制作:布山タルト)

撮影:木奥恵三

10m離れた双眼鏡から《1/100の世界》を覗くと,ちょうど1/1の世界を見ているように見えます.

寺田さんによるワークショップ「ちいさなまちをつくってみよう」は,「1/100建築模型用添景セット」からカッターを使って紙の模型を切り取るところからスタートしました.続いてピンセットでポーズをつけると紙の人や動物にはさまざまな表情が現われてきました.小さな物語の誕生です.

講師の寺田さんによる説明

街を目の前にして,どこに置こうかと相談する姿もありました.最後には街の写真を撮ってタイトルを付け,たくさんの物語が生まれました.



■野老朝雄《kumapon(g)》
黄金比の関係でできている円型の木板で《kumapon(g)》のコマ撮りアニメーションを作ることができます.
(展示協力:布山タルト+トリガーデバイス)
作られたアニメーションは,会場内でアーカイヴとして公開しました.

撮影:木奥恵三

撮影:木奥恵三

撮影:木奥恵三

こちらでは色紙や塗り絵で《kumapon(g)》を作り,壁に掲示しました.黄金比の円だけで構成されているとは思えないほどのさまざまな《kumapon(g)》が並びました.

白黒の《kumapon(g)》タペストリーやカラフルな巨大《kumapon(g)》も展示しました.

撮影:木奥恵三


野老さんによるワークショップ「kumapon(g)をつくってみよう」では,特別な色紙や画材で《kumapon(g)》を作りました.色々なパターンの《kumapon(g)》を見比べると,円を並べる角度や色だけでもかなりの印象の違いがあることがわかりました.

講師の野老さんによる説明



■鳴川肇《半球カメラ》,《平行カメラ》
《半球カメラ》は,投影される面が半球のドームに近い形になっている,画角が2πsr(ステラジアン)のカメラです.左右だけでなく,上下も含めた180度の像を見ることができます.
この球面の画像をいかにしてゆがみを抑えながら四角い平面に描き写すか,という問題は「オーサグラフ図法」の考案へとつながっているそうです.

撮影:木奥恵三

撮影:木奥恵三


《平行カメラ》は,ストローでできた画角が0度のカメラです.光はストローをまっすぐに通り抜けるため,被写体が原寸大で見えます.沢山のストローが平行に並んでいるので,《平行カメラ》から遠ざかるほど広範囲の被写体を見ることができます.また,ストローの長さと太さが「被写界深度」と比例しています.ストローに近いほどピントが合うので,泳いでいる金魚がぼやけたりはっきり見えたりします.

撮影:木奥恵三


鳴川さんによるワークショップ「ふしぎなカメラをつくってみよう」では,パネルによる画角の説明のあと,ストローやプラスチック段ボールをアクリルの箱に入れて《平行カメラ》を作りました.

講師の鳴川さんによる説明

完成した《平行カメラ》では,参加者に持参していただいた物を見たり,カメラ越しの顔の撮影を行ないました.



■ギャラリートーク
関連イヴェントとして,寺田さん,野老さん,鳴川さん,そして企画協力/会場構成の長岡さんを講師にお迎えし,ICC畠中を加えた5名でギャラリートークを行ないました.
内容は,「ものさし」とは何なのか?そして各人が持っている「ものさし」とは何をさしているのか?を中心に展開されました.

左から:長岡さん,寺田さん,鳴川さん,野老さん

まずはこの展覧会の主旨について,長岡さんより,現代に存在する「ものさし」とは誰かがある地点で決めた単位にすぎず,違う視点で見れば違う基準が作れるのではないか?そしてここにいる作家三人それぞれの「ものさし」=価値の基準,視点,そして世の中をどのように見ているか,またどう表現し伝えているかを通して,新しい「ものさし」やその使い方を考えてみて欲しい,というお話がありました.


続いて各作家に,作品と「ものさし」についてのお話をしていただきました.


寺田さんは,「縮尺」によってプラモデルの何かが少しずつ違うことが小学生の頃から気になっていたそうです.そして今回の《1/100の世界》では,現実のモノを単純に小さくするのではなく,少しずつ形を変えて省略や強調を施す,すなわちデフォルメすることをテーマに制作をされました.模型で縮尺を変える時は,人間の左右の目の間隔と立体感の関係でデフォルメが必要となりますが,寺田さんは,他者が模型を使うときに感情移入や解釈できる幅を広げられるよう,そこに想像できる余地を残してデフォルメをするそうです.


今後の展望として,1/100に縮小したものをそのまま1/1にサイズを戻した空間を作ってみたいとのことで,その時には1/100の模型に施したデフォルメ感はどう強調されるのか,とても興味があるそうです.そして1/100から想像する1/1の世界とモノの見え方が,今度はライフスタイルにつながれば嬉しいとおっしゃっていました.



野老さんは,「黄金比」は素晴らしい比率として授業で習ったものの,子供の頃はあまり興味がなかったそうです.《kumapon(g)》は,黄金比を使って沢山の丸を描き,それを塗りつぶしていると顔のようなものが偶然に現われ,さらには色々な表情ができるのでは?と描き続けて生まれたそうです.今回展示するにあたっては,自分で描くのに加えて誰でも描ける「描き方」を作りたいと思い,会場にいらっしゃる方と一緒に黄金比の円や塗り絵を使って《kumapon(g)》を増やしていくスペースとしました.


《kumapon(g)》の見え方や描き方について,すぐに「クマだ!」と言ってくれるお子さんもいれば,どこまで行っても幾何学模様にしか見えない方もいたり,そして白黒反転してみると凶悪に感じられたりと,どう見えるのかは気にして描いているが,ただどんなに落ち込んでいても黄金比というものは変わらないと思うと面白く,泣きながらコンパスで描いてもやっぱりそういう形しか描けない,とおっしゃっていたのが印象的でした.


今回,野老さんが大きな《kumapon(g)》を描くための定規(=黄金比の円が描ける,逆に言えば黄金比しか描けない定規)を作ったことについて長岡さんは,モノを作るというのは美学的な意識だけではなく道具の発明にも及び,またそれが表現に影響するという行きつ戻りつの循環作用が重要であり,これを行なうことが「ものさし」を作る上で重要なことだ,とおっしゃっていました.



鳴川さんは,カメラで撮れる「画角」について疑問を持ったそうです.そして全ての方向を一度に撮れるカメラを考えていた時に,全方向の風景一周(パノラマ)が360度と考えるのは真上と真下を忘れてしまっている!と気付き,また人間の目がどうなっているのかということも考えながら,まずは投影される面を丸く半球のドーム形にして(《半球カメラ》)2つを合わせ,左側と右側,真上と真下も含めて最大画角が360度以上の4πsrの風景を撮れるカメラを作ったそうです.そして今度は,逆に画角をぐっと小さくしてストローのような画角0度のカメラを作ったらどういうモノが見えるのか?と考え,《平行カメラ》の制作につながったそうです.また《平行カメラ》のベースには,鳴川さんが考案した,球面としての世界や空間全体を写像を通して全方位的に矩形へと投射することができる画期的な表記法による世界地図「オーサグラフ」があるそうです.


《平行カメラ》の被写体については,始めは綺麗な花を眺めるのが美しいのでは?と思っていたが,ぬいぐるみを動かして見てみるとすごく不思議な見え方をして面白かったりと,実際に展示してみてわかったことがあり勉強になっている,とおっしゃっていました.




今回のキッズ・プログラムについては,ICC畠中より,それぞれをさらりと見ると,面白い,かわいいといった感じだが,よく考えていくと非常に大きな考えがコロっと変わったり,今までの人類の歴史や人間がずっと考えてきたことをクルっと変えてしまうような大きな出来事になり得ることが潜んでいて,そこからもっと大きな発見や発明につながることが生まれている,という話があり,さらに長岡さんから,それぞれの作家には「ものさし」(テーマ)があり,スタートとしては自分たちが持っている枠組みや決まっていることを疑おうということになるのだが,そこには「主観的」ということがすごく重要で,我々がモノを作る時には,あらゆるモノがその人のフィルターを通る.そうやって主観的に作っていくとその中に決まったルールが発見され,それをまた主観的なルールにフィードバックする…という循環作用によって,その人の世界ができる.それが「ものさし」を考える時に重要であり,その「ものさし」を使って物事をどうやって魅力的に伝えるか,そして表すことができるかなどにつながっていると思う,というお話がありました.


今回はお子さまへ向けてとあって,話の中で比率を身近なものに例えたり,説明にイラストを交えながらのトークとなりました.また途中では参加しているお子さまとの会話もあったりと,終始なごやかな雰囲気で進められました.各人のお話は大人にとっても興味深く,保護者が熱心に耳を傾けている姿もたくさん見られました.
展示やワークショップと併せて,こちらのトークも『自分だけの「ものさし」』を探すヒントになったのではないかと思います.

***

現在開催中の「オープン・スペース 2011」では,トランス・スケール第二弾として「トランス・スケール 02 比率の部屋」を展示しています.
黄金比率で序々に大きな部屋へと広がってく展示空間になっており,圧縮された空間から開放的な空間へ巡りながら「トランス・スケール」を体験していただけます.是非お越し下さい!


撮影:木奥恵三


「オープン・スペース 2011」
会期:2011年10月22日(土)―2012年3月18日(日),開館時間:午前11時—午後6時,休館日:月曜日,入場無料
寺田尚樹+野老朝雄+長岡勉+鳴川肇 出品作品 「トランス・スケール 02 比率の部屋」


「チャンネルICC」
ICCのポッドキャスト・サーヴィス「チャンネルICC」では,長岡勉さんのインタヴューを公開しています.
長岡勉 インタヴュー


[M.M.]