16:9のモニター8台が,全体でひとつの映像となるように横一列に連結され,その横長の映像の中をモニター1画面分の映像が,モニターを横切るように,ゆっくりと端から端へ移動していきます.しかし,移動する映像の進行方向先頭よりも前方には,その映像の先端の1ピクセル分の映像が引き延ばされたように,色による何本もの線状の画像が表示されていて,映像が進むにつれて,その線から画像が紡がれていくような印象を与えます.一方,移動する映像の最後端は縦1ピクセルずつ定着されていくため,映像がディスプレイの端まで移動したときに現われる静止画像は,カメラが移動した時間の軌跡ともいうべきものになります.
作品には,風景の映像として構成されることになる線状の色の帯,動いている風景の映像,そして,移動した映像が定着された静止画像という,異なる三つの映像の様態が表示されています.それは,人間の視覚と,それをもとに空間をとらえようとした光学装置としてのカメラという,空間を認識するふたつの方法とは異なる方法による視覚体験を提示しています.
たとえば,スキャナーやコピー機のような,平面の対象物を線によって写し取る方法で空間をとらえようとすると,線遠近法にもとづく透視図とは異なる,消失点がなく奥行きのない映像として記述されます.それは,人間の視覚とは別の方法によって世界をとらえたものでもあるのです.
東京都写真美術館蔵
プログラミング:古舘健