本作品は,ヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)と9.1チャンネルの立体音響システムを用いて,現実には存在しない世界を無響室内に生み出すインスタレーションです.鑑賞者は,現実空間からシームレスに,仮想空間の超現実的な異空間を体験します.
本作のタイトルは,1986年に出版された,哲学者トーマス・ネーゲル(Thomas NAGEL)による著書『どこでもないところからの眺め』*のタイトルから引用されています.行為の主体性と客観性を止揚する「どこでもないところからの眺め」を体験者がいかにして獲得することが可能かを,VRと生成される音響環境によって試みます.
本作は,体験者自身がこれまでの人生で培ってきた知覚と運動の関係性,これまでの経験(あるいは未来の予測)から生まれる記憶と「今」の関係性,の双方にズレを生じさせることで,一人称でも三人称でもない世界の見方,その視点へと近づくための装置です.
作品中で聴こえる音と音の運動は,その大半がリアルタイムに生成されています.たとえば,体験者が見ている風景そのものが音に変換されたり,VR空間の目に見えないボイド(たくさんの群れの複雑な動きをシミュレーションしたもの)の飛行にともなって波のような音が生成されているなど,体験ごとに異なる生きた環境としての仮想空間が作られています.
*中村昇,鈴木保早,山田雅大,岡山敬二,齋藤宜之,新海太郎 訳,春秋社,2009年コンセプト:升森敦士,池上高志
VR開発:升森敦士
MRシステム開発:丸山典宏
センサー開発:johnsmith
音響生成システム開発:土井樹
立体音響システム:久保二朗
機材協力:SEE by YOUR EARS
協賛企業:ALIFE Lab.