暗い部屋の中を走る鉄道模型の先頭には,小さなLED照明が点灯しています.その車両は,模型の線路に沿って大小さまざまな「もの」が配置された室内をゆっくりと移動し,それに伴って「もの」の影が室内の壁,天井に投影されます.その光源の動きから,静止している「もの」の影が動きだし,車窓からの眺めのように移動し,あたかも観客は「車両に乗っているかのように影に包囲されます.
この作品で投影される影は,改造された鉄道模型に搭載されたLED照明による光源から生み出されています.この光源は点光源と呼ばれ,光源から光が放射状に広がり,それによってできる影も放射状に投影されます.そのような環境では,「もの」と光源の位置関係が近ければ影は大きくなり,遠ければ小さくなります.この作品を形成している要素は,物質的には鉄道模型と線路のそばに置かれた「もの」だと言えますが,さらには光源としての点であり,その点の移動の軌跡としての線であり,「もの」の断面としての面だと言えます.また,線によって移動する点が,面としての影を動かしています.映像装置の起源とも言える幻灯機のような趣をもつこの作品では,光源があたかもカメラのレンズのように周りの「もの」を映し出しています.その映像は,どこかノスタルジックでもあり,私たちそれぞれがもつ記憶が呼び起こされるようでもあります.