針のない文字盤だけの時計の前に立つと,自分の姿が時計の針となって現われ,時を刻み始めます.ここでは,内蔵されたカメラによって撮影された画像の中から作品に向かって立っている人だけを抽出し,シルエットとして切り抜くという最新の画像処理技術が使われています.画像が更新されるタイミングは,時針は1時間ごと,分針は1分ごと,そして秒針は1秒ごとと,針によって異なるため,1分間以上時計の前にいると,異なる自分の姿が文字盤上に現われるのを見ることができます.
時計は,誰にとっても等しく,規則正しく流れる時間の流れを示すためにあるものですが,私たちが生活の中で主観的に経験する時間は,必ずしも一定ではありません.ある瞬間が濃密に長く感じられる一方で,ある期間が一瞬のように短く感じられることもあるでしょう.公共空間に設置された,自分がいないと機能しない時計は,そんな「自分だけの時間」があることをあらためて意識させてくれます.
この作品は,「デジタルパブリックアートを創出する技術」プロジェクトの一環として制作されました.アーティストと技術者が共同して作品制作にあたることにより,公共空間にとけ込みつつも参加性の高い作品となっています.
システム:松村成朗,冨樫政徳(東京大学 相澤・山崎研究室)