ロビーを歩くと,自分の歩く一歩先に足跡が現われる《未来の足跡》では,人が歩いてくる方角と速度をリアルタイム画像処理技術で認識し,高精度な予測技術によって,その人の進む方向を正確に予測して足跡を表示しています.まるで自分の無意識が可視化されたかのような,意識されない未来の自分を見せられているような気分になるでしょう.
針のない文字盤だけの時計の前に立つと,自分の姿が時計の針となって現われる《自針と分針》では,カメラによって撮影された画像から,作品に向かって立っている人だけを切り抜くという最新の画像処理技術が使われています.自分の画像は,時針は1時間ごと,分針は1分ごと,そして秒針は1秒ごとに更新されます.自分がいないと機能しない時計は,そんな「自分だけの時間」があることをあらためて意識させてくれます.
普通の証明写真ボックスのような《まばたき証明写真》は,画像認識技術によって,まばたきをした瞬間にシャッターが切られる仕組みになっています.ふだんはまばたきをしないように気をつける証明写真ですが,この作品は,一瞬だけ目を閉じるというほとんど意識することがない,ゆえに素の自分の表情をあらためて意識させるものでもあるでしょう.
これらの作品は,アーティストと技術者の共同によって制作され,公共空間にとけ込みつつも参加性の高い作品が実現されています.
《自針と分針》《未来の足跡》は,「デジタルパブリックアートを創出する技術」プロジェクトの一環として制作されました.
《自針と分針》《未来の足跡》システム:松村成朗,松濤智明,オゥグ・オストルク,冨樫政徳(東京大学 相澤・山崎研究室)