円形に光のあたった床に,とげのような立体がいくつも並んでいます.この円錐状のオブジェには,天井からの光によって影が落ちているように見えます.しかし,円錐にふれるとその影は動きだし,日時計のように回転したり,伸び縮みしたりします.別な円錐にふれれば,全ての影が動き出したり,カラフルに色づいたりと,いろいろな反応をします.
この作品では,影をCGによって作り出し,あたかも実際の影であるかのように見せています.影というものは,光を完全に通してしまうもの以外のあらゆる物体に必ずできるものであり,言いかえれば,影とは存在しているということの証明であるということができるでしょう.しかし,影が実在することの証であるのに対して,影そのものには,モニターやスクリーンに映し出された映像と同じように実体はありません.影は影絵や幻灯機などの,映像および映像装置の原点でもありますが,この作品では鑑賞者が能動的に関与することで,影によるイマジネーションの世界が動きだします.CGによって作られた偽物の影と自分自身の本物の影が同じ平面上に投影されたとき,わたしたちは自分の影と自分の存在を再認識することになるでしょう.