ある写真のオリジナルから派生,変化した多数のさまざまなヴァリエーションが展示されています.それは,オリジナルに近いものから,同じ写真とはまったく認識できないほどの変化にいたるまで,その状態は多様です.これらの写真には,コンピュータの画面でときどき見かけるような,画像がうまく適正に再現されなかった状態と同じことが起こっています.すべてが,もともとは同じ写真,つまり同じイメージをもったものでしたが,それぞれに異なるのは,その画像のデータ形式です.同じイメージを表示していても,その画像データの形式が異なっているために,データに欠損を生じた際の現象,表示された状態に差異が生じているのです.
こうした画像は,デジタルに特有な,意図されていなかったデータの不適正な状態が表示される現象で,グリッチと呼ばれています.デジタル音楽では,読み込みに不備のある状態のCDを使用したり,音のデータを加工する変数が不適正だったり,予測不可能な音とびやノイズを発生させたものがグリッチと呼ばれています.
こうしたグリッチは,新しいテクノロジーと同時に見いだされた副産物としての新しい美的価値とも言え,現在では表現としても積極的に取り入れられてもいます.ここでは,現象としてのグリッチそのものの提示とともに,グリッチによる観客自身のポートレートを見ることができます.