これは,自由に形を描いて作り出した人工生物を生息させるための水槽です.人工生物は現実と仮想の環境に適応しながら,互いに影響を及ぼし合い,その形が環境にふさわしいと長く生き続けます.また,生物同士は,子どもを産むこともあれば,強いものが弱いものを食べてしまうこともあります.また,水槽に手を入れることで一方を守ったり,違う動きをするように誘導することもできます.
自然環境は,観察の対象として眺められるだけではなく,観察者自身からも影響を与えられ,変化をしていくものです.これは仮想の環境において,その相互作用をシミュレートしている作品です.形をうまくデザインすると,動きが機敏でかつ筋肉の強い生物になり,さらに水圧や他の生物の動きとの関係によって適応性が試されます.固有の形を決定している「遺伝子」情報は,出産をするときに2匹以上の生物との間で交換され,子に引き継がれます.作者は,こうした人工生命(Artificial Life)を使った視覚表現の試みを,クルト・シュヴィッタース,ロバート・ラウシェンバーグ,フルクサスらに代表されるような20世紀の芸術における「プロセス」を重視する傾向の延長に位置づけています.この作品は1994年にICCとATR人間情報通信研究所の客員研究員トマス・レイ博士の協力によって制作されました.