ICC Review
HIROSE+MINATO ヴァーチュアル・リアリティ,そしてテレプレゼンスの行方
The Future of Virtual Reality and Telepresence

廣瀬通孝港千尋
HIROSE Michitaka and MINATO Chihiro



ヴァーチュアル・リアリティと
テレプレゼンスの位置関係

港千尋――まず,ヴァーチュアル・リアリティ(以下VR)とテレプレゼンスの関係についてお聞かせください.

廣瀬通孝――VRと言った場合に,一般的には二通りの意味があります.一つは狭義の意味のVRで,完全なファンタジーの世界.つまり,コンピュータでシミュレートされた現実には存在しない世界ですね.もう一つはもう少し広義で,コンピュータを介して遠方の現実世界を体験すること,つまりテレプレゼンスまでを含む概念としてのVRです.現実と仮想の中間のあたりがおそらくアーティストにとって一番興味深いところではないでしょうか.逆にテレプレゼンスもVRの一部であるという考え方もできます.自分自身の存在がまずあって,テレプレゼンス技術によって別の世界に行くのだとも言えるからです.その行き先が現実世界である場合には(狭義の)テレプレゼンスであり,コンピュータ上のシミュレーション世界である場合には狭義のVRということになります.つまり,テレプレゼンスの中にVRが入っているとも言えるわけで,相互に入れ子構造になっているのです.

――現実と仮想現実がはっきりと分かれているのではなく,現実そのものがいくつもの層を成していて,そのいろいろな現実に入っていく通路を,VRの技術を使って見つけていくということですね.

廣瀬――だからこそテレプレゼンスという言葉を使っているわけです. 港――テレプレゼンスという言葉を使うとき,そもそもプレゼンスとは一体何かということをまず考える必要があります.このプレゼンスということ自体,あまり自明のものではありません.われわれは,いままで特に視覚によるプレゼンスを中心にして考えてきましたが,それだけではなく,アフォーダンスで言うような現前の考え方もあるわけでしょう.ですから,「人間が存在する」ということ,あるいは「ものが存在してそれを人間が認識する」ということは,そもそもどういうことなのかを,もう一度考えていく必要があると思います.そうすると,テレプレゼンスは単なる技術ではなく,文化――人間が認識・経験するということ――をもう一度見直す糸口になるという気がするのですが…….

廣瀬――もともとVRという概念は,ソフトウェア科学寄りの分野から出てきた概念なのに対して,テレプレゼンスは,ロボットの遠隔操作から出てきた概念です.そういう意味ではVRよりも工学的な出自があるわけですが,(今回ICCで開かれる展覧会のように)アートのようなソフトウェアのほうから,テレプレゼンスという概念が出てくるというのは,おもしろいですね…….

――おもしろいですね.本当に特殊なところから出てきた概念が,文化全体を逆に包み込んでいっているとも言えますね.

廣瀬――技術者から見ると,VRのほうが広がりのある言葉のように聞こえて,テレプレゼンスというと非常にテクニカルなタームに聞こえる.ですからどちらが広い概念でどちらが狭い概念かというと…….

――入れ子構造ですね.

廣瀬――それがグルグル回っている(笑).

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